広報・PR #03

なぜ多くの企業が政治的中立を選ばず、ウクライナ支援のメッセージを発信したのか

 

戦時下で企業が社会に発信すべきメッセージとは?


 コロナ禍において、自社のアイデンティティが失われつつあると嘆く創業者・経営者は多い。具体的には「社員同士が顔を合わせることがなくなった」「社内の一体感が失われた」という声だ。新入社員からは「入社以来一度も本社に出勤していない」という声も聞かれた。

 リモートワークを導入したものの、まだ環境に慣れていない職場では、「上司や所属部署からの十分な説明やフォローが得られない」「毎日がパソコンに向かって作業をこなすだけ」「何のためにこの会社に入ったのだろうか」と嘆く声もよく聞かれる。

 ロシア軍によるウクライナ侵攻に際していち早く支援の声を挙げた企業の多くは、コロナ禍において厳しい経営環境に置かれた企業でもある。こうした企業がロシア軍によるウクライナ侵攻に明確に「NO」という声を挙げた。単なるビジネス上の「損得」ではなく、企業アイデンティティの現れだと私は考える。

 企業による政治的メッセージの発信は、一面においては顧客を含む自社を取り囲むアウターに向けて強い意味を持つ。単に売上を上げることだけが自社の目的ではない。リスクを及ぼしかねない政治的メッセージを発信することで、中長期的には「平和」「自由」「人権」「民主社会」に寄与する企業として、多くの人々によって記憶されるだろう。

 同時にインターナルに向けたメッセージとしての意味も持つ。コロナ禍において「働くことの意義」を見失いつつある社員はどこの企業にも多い。社内に向けても明確なメッセージを企業が発信すべきタイミングでもある。

 混迷を深める時代、企業が社会に発信していくべきメッセージは「自社は平和で健全な社会とともに在る」「自社はどういう価値を生み出しているのか」「自社の考える善悪、幸福、平和とは何か?」なのだ。これまで企業があえて発信してこなかった、明確で強いメッセージ(企業アイデンティティ)の発信が今求められている。
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