音部で「壁打ち」 – あなたの質問に答えます。 #37
止まらない価格上昇。企業は「値上げ」を消費者にどう伝えるべきか?【音部で壁打ち】
デフレ化の日本、稀な値上げのコミュニケーション
【質問】
原料高で値上げをすることになりました。消費者に対して、どのようにコミュニケーションすべきか、または積極的にしないほうがいいか、アドバイスが欲しいです。
コロナや戦争といった世界情勢の変化が生産、物流などに大きな影響を与えています。ニュースでも物品の値上げが頻繁に取り上げられ、企業やブランドからのコミュニケーションを耳にする機会も増えてきました。長らくデフレ下にあった日本市場では、消費税率の変更以外では、多くのマーケターにとって値上げは初めての経験でしょう。自分が担当するブランドにその必要が迫ったとき、どのようにコミュニケーションをすべきか、悩ましいものです。
いくつものブランドが値上げのコミュニケーションをしていますし、上司から「コミュニケーションを考えてみて」などと指示されると、はたしてコミュニケーションをすべきかどうか、どのような内容をどういった方法でいかに伝えるか、などと考えることに集中しがちです。
いずれにしても、目的が曖昧なままあれこれ思案してみても、そもそも何から考えればいいかよく分からず、考えたところで良し悪しの判断も困難です。この連載でも何度か立ち返っているように、悩んだときの最初の処方箋は、目的の明確化です。そこで、この問い自体を問い直してみましょう。
「コミュニケーションをすべきか否か」や「どのようにコミュニケーションするか」以前に、「そのコミュニケーションによって実現したいこと」を明らかにできれば指針ができます。価格を上げた後に、顧客や消費者にどのように感じてもらえればいいでしょう。もし値上げのコミュニケーションの必要が感じられるならば、どのような認識(パーセプション)を確立したいでしょう。「目的を明示できれば、問題の半分は解けたようなもの」という意味の格言もあるように、実現したいことが明確になっていれば、実行する方法もずっと考えやすくなるだろうと思います。期待される感情や認識が自然には実現されないのであれば、説明などの働きかけが必要です。つまり、目的を実現するためのコミュニケーションを設計します。では、どのような目的が考えられるでしょう。
想定されるコミュニケーションが流通業者向けであれば、その目的は①新しい納入価格や納入単位などを理解してもらい、②建設的な協働関係を維持することなどは一般的だと思います。新価格や荷姿などの変更を明確に、そして端的に伝え、必要に応じて値上げの背景や自分たちのパーパスやビジョンなどをご理解いただくことが主な方針となりそうです。
もし流通業者ではなく、消費者向けのコミュニケーションを意図されているのであれば、①ブランド体験を通した高い満足を維持し、②継続的な愛用や愛着を維持・強化することが目的になるでしょう。値上げのコミュニケーション以前になすべきことがあるなら、そちらを優先します。たとえば、価格に見合った満足や体験、つまり価値を提供できていることは大前提です。値上げの背景には諸原材料や物流など高騰による原価の上昇があることでしょう。そうした状況下でも、製品性能や機能で妥協せず、高い満足と愛着を維持するためには、値上げが不可欠になったのだろうと想像します。であるならば、そうした理解を促す内容と伝達方法を考えるべきだろうと思います。
値上げや容量の変更といった価格に関するマーケティング活動に際しては、消費者が体感するベネフィット(便益)と価格との関係をうまく整理できると有意義です。値上げはネガティブに捉えられることが多いですが、いくつかヒントを考えてみましょう。