音部で「壁打ち」 – あなたの質問に答えます。 #37

止まらない価格上昇。企業は「値上げ」を消費者にどう伝えるべきか?【音部で壁打ち】

 

機能としての価格が提供するベネフィットを意識する


 長期的なデフレの市場環境下では、価格をうまく下げることで成長したブランドがいくつも生まれました。海外などに安く生産できる体制を構築し、価格競争力を武器に成長した世界的な企業もあります。成分や性能などの製品属性で競合ブランドと肩を並べつつ、価格が下をくぐることでシェアを奪う、という方針の単品D2C企業も目に付きます。

 いずれも、「いい商品」とは「価格が安い商品である」ことを掲げているようです。こうした「低価格こそが正義」という立場からは、価格はブランドの「ベネフィット(便益)」のように見えるかもしれませんが、価格はそもそも「機能」です。

 低価格という「機能」が提供している「ベネフィット」は、「買い物上手でかしこく暮らせる」や「得することで優越感や達成感を感じる」、あるいは「損をしないことで安心できる」などと理解できます。物理的な「機能」として価格が高くなったとしても、認識される「ベネフィット」に着目することで、満足の度合いを維持したり、強化したりする方法は工夫できそうです。

 買い物上手でかしこく暮らせていることは、購入単価のみに依存するものではありません。そもそも価格の解釈も、1個あたり単価だけでなく、期間あたり単価、容量や回数あたり単価、消費人数あたり単価などさまざまです。

 また、顕在化していなかったベネフィットを新しく気付いてもらうことで、価格の上昇以上に魅力度を高められることもあります。既存のロイヤルユーザーがブランドに満足している理由などをよく理解することで、そうしたベネフィットの発見につながるかもしれません。消費者インタビューや、アンケート調査結果などを見直してみましょう。


 

価格を捉える消費者の自我を意識する


 実際の自分たちの行動を振り返ってみると、家にいるときなど平常時には、329円と334円の差に悩まされることはほとんどありません。基本原則としては安いほうを好みがちですが、この程度の価格差が選択や消費行動に影響を与えることはまれです。きっと、金額以外の選択基準が採用されるでしょう。

 ところが、店頭ではこの5円差に選択を迷ったり、買い控えたりすることがあります。ショッパー(購買者)の気持ちでいると、価格の影響は甚大です。1円でも安く買うことは、ショッパーにとって重要な基準だからです。同じ人物でも、母親や夫といった家庭での役割、会社の中でのビジネスパーソンの立場、自身の志向にもとづいて生活を楽しんでいる自分自身など、ショッパーとは異なる「自我」をもっています。それぞれの「自我」によって、価格を含めた諸要素の重要度が変化します。

 自分自身の消費行動を振り返っても、こうした傾向を観察できることと思います。古典的な消費者理解では「自我」が意識されることは稀ですが、消費行動やブランド認識などに大きな影響を与えていることは自覚できます。価格の側面においても、消費者行動の仕組みの理解を助けることが少なくありません。ユーザーがブランドを選択し、継続的に使う際の「自我」を理解することで、いままでにない気付きがあるかもしれません。

 しばらくの間、さまざまな領域で値上げを余儀なくされると思います。ブランドと消費者についての理解をすすめ、機能としての価格のみに依存するのではなく、ベネフィットに立脚したブランド体験や愛着を創造していきましょう。
 
音部氏の最新刊好評発売中 (詳細はこちら)

 ※連載音部で「壁打ち」の質問も募集中!音部大輔さんが皆さまからの質問に答えてくれます。 こちらでお待ちしています。
他の連載記事:
音部で「壁打ち」 – あなたの質問に答えます。 の記事一覧
  • 前のページ
  • 1
  • 2

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録