音部で「壁打ち」 – あなたの質問に答えます。 #39
広告会社やIT会社と「良い関係」を築くための大事な話【音部で壁打ち】
パートナー企業との協働に向けて
【質問】
広告会社やITソリューション会社などのパートナー企業と、良い関係を築くためのコツはありますか?
5月31日から東京ミッドタウンでAdvertising Week Asiaが開催されました。広告業界との関係が深い老舗カンファレンスで、多くのマーケターやメディアの方々に加えて、広告会社やクリエイティブエージェンシーからも多く参加されていました。そこで今回は、広告会社などのパートナー企業との協働についての質問にお答えしたいと思います。
私自身、多くの広告会社やパートナー企業と協働してきましたし、そうした会社の顧問やアドバイザーなどをすることもあります。連携や協働の仕方については多様な考え方があると思いますが、経験にもとづいた協働のヒントをお話したいと思います。
「広告会社のクリエイティブ」のケース
駆け出しの頃、初めて広告会社とご一緒するにあたって、大先輩から大事なアドバイスをもらいました。
「クリエイティブの開発ではクリエイターの士気の高さはとても重要な変数だ。仕事だから手を抜くことはないけれど、もてる力を120%出してもらうにはコツがいる」
どのようなコツだろうと身を乗り出したところ、「ま、他の仕事でもそうなんだけれど」と続き、動機づけの話と理解しました。
動機づけであれば、消費者に欲しいと思ってもらったり、部下たちが奮起できたり、上司たちが支援してくれたりするのとよく似ています。自分を信頼してもらい、本人たちがブランドやプロジェクトを自分ごと化できることが重要です。同時に、スイッチはそれぞれに異なります。
「広告やプロモーションのクリエイティブ担当者は、広告会社の社員であるのと同時に、一人のクリエイターでもある。社員としての立身出世だけでなく、クリエイター個人として評価されることも意識していることが多い。そのためには広告賞は分かりやすい。受賞につながりそうなプロジェクトにときめくクリエイターは少なくない。チャンスがあれば、賞を取れるような手助けを心がけるといい。難易度は高いが、意義は深いぞ」
ブランドのマーケティング予算を使っている以上、賞のために広告をつくっているのではありません。とはいえ、ブランドを成長させつつ賞もとれるなら、そのほうが上等だと考えました。実際、いくつかの広告賞は、高い確率でビジネスへの貢献も示唆されています。心に響き、積極的に見たくなる広告であれば、そうでないものよりもコミュニケーションの効率はよさそうです。同じ投下量でも、パーセプションへの影響力が強いでしょう。同じ内容でも、教科書では覚えられなかったことが、マンガなら覚えられることがあります。
楽しいだけでベネフィットにつながらない作品は、ブランド広告として最適ではありませんが、魅力的なストーリーがブランドのベネフィットにつながっているなら、ビジネスの成長に寄与しないわけがありません。感情を動かす広告のストーリーは、ブランドのベネフィットを「人と人の間」に配し、両者の関係を改善するものであることが少なくありません。つまり、人間のインサイトに立脚し、ブランドのベネフィットを共感しやすく表現できている、ということです。主要な広告賞の受賞作品集などをご覧になると、そうした構造の作品を見つけられると思います。広告賞は奇をてらった表現の成果というよりも、かなりの正攻法の延長線上でも十分に獲得できるように思われます。
広告会社と一緒にビジネスの成功を求め、クリエイティブと一緒に賞を狙うというのは、意義深いアドバイスとなりました。ブランドを直接マネジメントしていた頃、ビジネスの成長に加えて複数の広告賞に恵まれたのは、このアドバイスのおかげでした。