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国連難民高等弁務官事務所の広報日記 #02

サッカーW杯ロシア大会の出場国で、「難民問題」を抱えているのは何カ国?【UNHCR 守屋由紀】

日本の難民問題、2万人の申請に対して20人?

 世界で紛争や迫害によって移動を強いられる人が6850万人を超え、そのような中で日本に庇護を求める難民申請者の数も年々、増えています。

 10年前には難民申請者がわずか1600人だったのが、その数は増え、昨年は10倍以上、2万人近く(1万9629人)ありました。日本は1970年代後半からインドシナ難民の大量流出を受け、1981年難民条約に、翌1982年に難民議定書に加入、新たに難民認定制度を導入しています。

 日本が難民認定・定住促進を行う過程をUNHCRは、命がけで逃れてきた難民が適切な保護を受けられるよう、国際保護の観点で細心の注意を払って支援活動にあたっております。

 ただ最近では、特に内外のメディアによって、日本への難民申請者が増えているのは、難民認定制度を濫用する偽装難民やブローカーの暗躍による、といった報道が散見されています。残念ながら、ブローカーの存在は否めませんが、「偽装」や「乱用」といった言葉が一人歩きしていることには抵抗を感じます。
 
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 そのため、UNHCRでは、本来保護されるべき難民に悪影響を及ぼさないように慎重に対応する必要があると考えています。他方、単年度に2万人近くも日本に申請しているのに、日本が20人程度の受け入れとの数字を出すことは、また異なる「イメージ先行」に加担することにもなりえるため、数字の一人歩きを避けるためにも、難民保護の観点から積極的に数字の対比をしていません。

 さらに突き詰めるならば、2017年に難民として認定された20人は必ずしも昨年申請した2万人近くのうちの20人ではなく、おそらく多くはその前、あるいはさらに前の年に申請している人たちです。

 申請件数が増えるにつけ、認定作業を担当する法務省の係官の作業も増え(またここで役所が担当者を即座に増員できないため)、極論ですが、10年前の10倍の申請者ということは、今まで月に20人の認定作業に関わっていた係官が200人を対応することになっているような現状です。

 同時に、難民申請者の方々も自分の結果がでるまで、平均3年から4年も待つことがあり、難民にも、法務省の係官にとっても不都合な現状となっています。

 さらに、他の先進諸国と日本との比較を望む声もありますが、歴史上移民が多く、外国人コミュニティが確立されていたり、難民発生国から直行便のフライトがある国との比較はまるで、りんごとスイカを比べるようで難儀です。

 そもそも日本は、1970年代後半から難民の受け入れを始めてから、インドシナ難民、条約に基づく難民認定された人、難民として認定されなかったものの、人道配慮を理由に在留を認められた人、2010年に開始した第三国定住によって受け入れられた人が延べ1万5000人近くいます。むしろ、

「日本にも紛争や迫害を逃れ、保護を受けた難民が1万5000人近く暮らしています。そんな私たちの身近にいる難民…、彼らはどんな想いを抱いて過ごしているのでしょうか」

 このような表現のほうが伝わりやすいのではないでしょうか。

 事実にかわりなくても、その事実をどのように伝えるかがいかにデリケートで大切であるかをUNHCRは日々痛感しているため、数字の一人歩きによる議論や世論が難民保護からそれた方向にいくこともあり得ることに対しては、細心の注意を払う必要があります。

そこで、より多くの人に「難民問題」を知り、考えてもらうためにサッカーワールドカップやオリンピックなど世界中の国が参加するスポーツイベントはよい機会になると思っています。
 

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