【速報】カンヌライオンズ2022現地レポート #03

カンヌライオンズ2022から見えた傾向、再確認された「従来型」広告表現の力

 

クラシック・トラック4部門が心に残った2022年

 
別館に当たる「パレⅡ」は、今年はTHE HUBとして、ネットワーク系の場所に。
 
「パレⅡ」にあるMeet Ups Stageは小規模セミナー用。スピーカーが参加者同士の対話を促していた。

 今年は、かなりの改変があった9つのトラックでは、前回も少しお伝えしましたが、クラシック・トラックが新設されました。これは、旧コミュニケーション・トラックからモバイル部門とデザイン部門とチタニウム部門をはずし、いわゆる4マスと呼ばれたテレビ、新聞、雑誌、ラジオにアウトドアを加えた形の4部門(フィルム部門、プリント&パブリッシング部門、アウトドア部門、ラジオ&オーディオ部門)で構成されています。

 英文の解説によれば、クラシック・トラックは、「クリエイティブのビッグ・アイディア。長い間にわたって進化し続けているイメージとサウンドとストーリーテリングの基盤を通じて、生活や人生にもたらされる作品」とされています。

 このトラックの名称を目にした時には、私は正直なところ「ずいぶんとネガティブな印象も与えかねない名前を付けるなぁ」と感じました。つまり、このトラックの受賞作は「古臭いよ」と宣言しているとも取られかねないと思ったからです。

 しかし、初日の月曜日の贈賞式でこのうちの3部門の受賞作を目にした時に(フィルム部門はカンヌライオンズ発祥の賞ということからか、最終日の金曜日に発表)、「あれあれ、なんだか面白いぞ!」と感じていました。その感覚は、最終日のフィルム部門の発表を見ても、変わりませんでした。

 一言で言えば、「仕掛けとか、なんとか言わずに“広告表現の力”で勝負するのもなかなかいいなぁ」といった感覚です。会場で話した複数の日本人も同様の感想を持っていました。

 ここでは、フィルム部門のゴールド受賞作を2本と、プリント&パブリッシング部門とアウトドア部門でゴールドを同時受賞した1本をご紹介しましょう。

 まずは、Apple 「iPhone 13 Pro」の「Detectives(探偵たち)」から。
 

 張り込みをしているらしいクルマの中の2人。後輩らしき奥の人物がおもむろに話し出します。「ひとつ質問してもいいですか。僕って、ピントが来ていませんよね?」

 先輩らしき手前の人物は、「そうだよ」と答えます。気づけば、確かにカメラのフォーカスは手前の人物に当たっていて、奥の人物はピンボケ状態です。

後輩「僕を見てください。ボヤケてますよねぇ」。

先輩「君はサポート役だからさ。カメラは重要な人物だけにフォーカスするように出来ていて、それは僕なのさ」。

後輩「僕が重大な秘密を明かしたとしたら、どうなります?」。

先輩「例えば、どんな?」

後輩「例えば、僕が実は殺人者で・・・」。

先輩「そうなのか?」

後輩「そうだよ」。

 と、ここで、カメラのフォーカスは奥の後輩くんにクッキリと会い、手前の先輩はボケます。しかし、後輩は結局「いや、違うんだ」と。すると、再び後輩はボケて、手前の先輩にフォーカスが合います。

 そこへ商品機能紹介の文字が「フォーカスがシフトする“シネマティック・モード”」と現れ、「iPhone 13 Pro」の文字と、「あなたのポケットにハリウッドを!」というコピーが現れます。

 どうでしょうか?このシンプルにして十分なエンタテイメント性と、フィルム全体で商品機能の特徴を見事にエモーショナルに説明している力は! 少なくても私は、ここに伝統的なテレビCMの表現の見事さを強く感じました。そして審査員もこのテレビCMを古臭いとは考えずに、ゴールドを贈賞したわけです。

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