広報・PR #04
大規模通信障害のKDDI広報対応は、なぜ評価されたのか? 自己保身に走らなかった社長を専門家が分析
高く評価された「広報対応」
7月2日未明に発生したKDDIの通信障害では、3915万回線に影響が及び、「今までの会社の歴史上、一番大きい障害」とKDDIの高橋誠社長は発表した。音声接続用のVoLTE交換機で発生した通信障害は、音声通話だけでなくSMSの利用も一時使用不可となったため、2段階認証でSMSを使うサービスに接続できなくなるなどの問題も発生した。
消費者だけではなく、法人への影響も大きかった。物流では宅配便の配送状況更新やドライバーへの連絡、銀行関係では店舗外のATMの一部が利用不可になったほか、一部空港ではスタッフ用無線が使用できなくなった。また、気象観測点でのデータ収集が一部不可になるなど生活インフラ全般への影響は広範囲に及んだ。
7月3日には復旧に向けた作業が一旦終わったとされたが、以降も再開試験や検証のため完全復旧に遅れが生じた。Twitterでは「#au復旧してない」がトレンド入りするなど、収束までの間にはさまざまな混乱もみられた。
こうした未曾有の障害にも関わらず、現時点(7/6時点)での同社の広報対応は概ね好意的に受け入れられている。その理由として、私は以下の3点が重要だったと考える。
① 事故対策本部の立ち上げが早かった
② 通信障害に関する技術的説明を丁寧に行った
③ 経営トップ自らが記者会見に臨んだ
まず、障害発生が深夜だったにも関わらず、発生30分後の深夜2時には事故対策本部を立ち上げた点は実に迅速な対応をとったと思う。総務省への報告も早く、影響の規模が甚大だったことから、総務省幹部がKDDIに派遣される異例の事態。また総務省からの要請により、1時間に1回のユーザーへの報告が要請されることとなった。
私は上記の特に②と③において、経営トップであるKDDIの高橋社長の役割が大きかったと考えている。障害発生の翌日7月3日の午前中に自ら記者会見に臨んだ高橋社長は、通信障害の状況説明を細かく行った後、記者との質疑応答にも自ら応じた。通信障害の状況についてトップ自らが細かな技術的な説明まで行う「攻め」の謝罪会見が早期に行われたことにより、利用者を含め生活者全体からKDDIの対応が概ね好意的に受け入れられたのだ。
今回のように、企業にとって重大な事故や不祥事が生じたとき、経営トップが自ら記者会見に臨み、記者たちを前に謝罪と状況説明を行うことは珍しいことではない。しかし、トップ自らが多くの記者の門前で状況説明と質疑応答に応じることは、企業にとって大きなリスクを孕んでいる。特にトップの対応が「企業防衛」や「自己保身」に終始していると受け止められた場合には、謝罪会見がかえって企業への不信感を増幅する結果にもつながる。
会見の冒頭、高橋社長は「大きな事故を起こしてしまい、大変申し訳ない」と謝罪を行った。その上で「復旧に全力を注ぎ、原因究明と再発防止策の検討を行う」ことを約束し、通信障害の状況詳細についての説明も行った。私自身は通信インフラについての知識に明るくないため、その詳細には触れることができないが、この技術的な説明が丁寧かつ実に明快だった。企業による危機管理広報の視点から、いわゆる「守り」の対応とは真逆の「攻め」の謝罪対応を行っているという印象を受けた。
もっともこの記者会見の時点では通信障害の技術的な原因究明まではできていない状態だった。しかし、会見では障害の発生直後からの流れをしっかり社長自らが把握しており、記者からの技術的な質問にも逐一自らの言葉で可能な限り丁寧に対応を行っていた。