音部で「壁打ち」 – あなたの質問に答えます。 #40

ブランディングはデザイナーだけに任せるべきか?【音部で壁打ち】

前回の記事:
広告会社やIT会社と「良い関係」を築くための大事な話【音部で壁打ち】
 

ブランドとしての世界感をつくるのは誰?

 

【質問】

社長から「ブランディングって世界観でしょ。デザイナーに任せとけばいいんじゃない?」と言われたのですが、ブランドって、そうやって作られるものが多いですか?

 立派なブランドが洗練されたデザインで表現されている様子はよく目にします。むしろ、強力なブランドが劣悪なデザインをまとった例などはあまり思いつきません。そこで、「いいブランドとは、すなわち魅力的なデザインがなされていることだ」という認識が生まれたとしても、自然なことでしょう。ブランドマネジメントに携わるまでは、私も含めて、実際にそう感じていた方も多いかもしれません。

 「いいブランド=魅力的なデザイン」という認識にもとづけば、「ブランドを強くするには、カッコよく美しくデザインが必要で、そのためには魅力的な世界観が不可欠だ。そうした世界観を創出するにはセンスのいいデザイナーやクリエイターに任せるべきだろう」といった議論が出てくるのは必然的です。

 こうした考え方を促す文化や風土が、日本の大企業にも見られることがあります。ものづくりを事業の中心に据え、独自のテクノロジーやサイエンス、製品開発や製造技術など製品機能や性能そのものを競争優位に成長してきた企業などにも顕著です。

 場合によっては、新興企業などに少しシェアを削られたりしていることもあるでしょう。「あの競合企業の商品が売れているらしいけれど、わが社の製品が性能で負けているわけではない。彼らの商品に技術的にも目を見張るものはないが、見た目のデザインは優れている。世界観が明確で、消費者もおしゃれで洗練された印象を抱いているようだ。わが社も、あの競合と同じように世界観を大事にしてブランドになるべきではないか」といった議論がなされているかもしれません。

 その結果、「わが社もブランドづくりはデザイナーに任せるべきだ」といった方針や、「海外に優れたデザインと世界観のブランドを見つけたので協働を探ろう」といった展開が続きます。
 

デザイン思考やクリエイターエコノミーも普及

   

 なかには、「デザイン思考やクリエイターエコノミーといった概念もよく聞くし、従来の製品開発や販売企画などとは次元の異なる感性が必要だ」など、似た言葉による概念の混乱や誤解などが観察されるかもしれません。

 デザイン思考はデザイン志向と同音ですが、造形や表現といった見た目のデザインを大事にする経営手法のことではありませんし、クリエイターエコノミーはクリエイターの経営参加を意味するものではありません。デザイン思考は、デザイナーがデザインをするときに使っている試行錯誤などのアプローチを、企業の問題解決などに応用しようという考え方のことです。クリエイターエコノミーは、個々人の情報発信などによって形成される経済圏のことです。また、デザイナーやクリエイターと呼ばれる方々のお話を聞いたり、お会いしたりする機会が増えてきている印象もあります。

 いずれもブランドの世界観に関する議論と直接関係しているわけではありませんが、「デザイン」や「クリエイター」という言葉の露出が高まっています。なんとなく、デザインやクリエイターなどを、きちんと意識したほうがいいような気分です。では、はたしてブランドはクリエイティブな世界観の表現に立脚すべきものなのでしょうか。

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