音部で「壁打ち」 – あなたの質問に答えます。 #40
ブランディングはデザイナーだけに任せるべきか?【音部で壁打ち】
消費者と提供価値を考えよう
この連載でも解説していますが、ブランドにはライフサイクルがありません。ターゲット消費者とベネフィットに立脚した「意味」がブランドを構成する主要素なので、うまく管理すれば、人の一生よりも長く存続し、社会に愛され続けることが可能です。混同されやすい概念にプロダクト・ライフサイクルがあります。プロダクトとは製品のことですが、その主要素である「技術」には新旧交代が生まれるので、多くの製品に宿命的に適用されます。ブランドと同じく「意味」を主要素とする言葉はライフサイクルがとても長く、長期にわたって変わらず使われます。ちょっと似ているかもしれません。
そうしたブランドの長命さは、持続的な利益に直結します。ユーザーの使用体験やブランドの広告などを通して「意味」が強化されることでコミュニケーションの効果や効率が改善し、利益率やマーケティングROIに寄与します。
そしてブランドの「意味」は、上述したように①ターゲットとする消費者と②提供するベネフィットを中心に定義されます(ベネフィットは「消費者」が享受する便益を指しますが、「ブランド」が提供する価値と言い換えても成立します)。明示されたベネフィットをターゲット消費者に体験してもらうためには、クリエイティブ表現やUI/UXなどの具体的なデザインが必要です。提供する相手としてターゲット消費者がいて、提供する価値としてベネフィットがあり、提供する手段としてクリエイティブ表現やUI/UXがあります。
大事なことに、ターゲット消費者の規模や、ベネフィットの魅力度は消費者調査などで客観的に測定できます。予算や労力などを投下する前に成功の確度を高め、振り返りを通して次回に備えることができます。客観的で再現性の高い評価方法があると、経験値を蓄積できます。つまり、回数を経るごとに組織もブランドも強くなっていきます。
センスにもとづく世界観やデザインをブランド創出の起点とした場合には、提案されたアイデアを客観的に評価しにくいという点に注意が必要です。個人的な好き嫌いに依存してしまうことが少なくないからです。主観的で再現性の低い評価方法では、経験値を蓄積しにくいでしょう。回数を経ても、成長を感じにくいかもしれません。
ブランドにふさわしい世界観、つまりブランドらしさの手触りや佇まいをつくるためには、ターゲット消費者とベネフィットでブランドを明確に定義することで、ターゲット消費者像、製品、販促活動、広告表現から価格やチャネルなどにいたるまで、一貫性を確立しやすくなります。表現が先にあり、事後的に主題が決まる芸術作品もありますが、主題があったうえで作成される作品も多くあります。天才のインスピレーションに端を発するブランドも存在しますが、消費者理解や戦略にのっとって構築されたブランドは高い再現性をもって、担当者の任期を超えて運営しやすいかもしれません。
いまの消費者や世の中の気分をうまく反映させた販促活動や、時代の空気感をあざやかに切り取った広告表現は過酷な市場環境では大いに歓迎されるべきものです。そして、ブランドの定義が明確であれば、表現は試行錯誤しつつ軌道修正していくことができます。デザイナーやクリエイターに創出される鮮烈な活動の背後に一貫性のあるブランド定義をもつことで、ブランドの本義である長期的な利益貢献を確立しやすくなるでしょう。
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