音部で「壁打ち」 – あなたの質問に答えます。 #43

マーケターが新技術に向き合うヒント【音部で壁打ち】

前回の記事:
外資系と日系企業、マーケター育成で優れているのはどちら?【音部で壁打ち】
 

マーケティングはトレンドにどう向き合うべき?

 

【質問】

マーケティングは時代の動きやトレンドに合わせて、変化していくものだと思いますが、今後どのように変化すると考えられますか? 特にデジタル広告に代表される新しい技術が数多く生まれ、それらがマーケティングに取り入れられていくように思います。

 デジタルマーケティングやマーケティングDXという文言が大いに語られた時期がありました。「それ以前のマーケティングは、絶滅するのだ」と言わんばかりの勢いでした。実際、各社の広告展開にも影響を与えたトレンドであったように思います。

 こうしたトレンドを考えるうえで、デジタルとマーケティングの関係は、大事なヒントを教えてくれます。「デジタルマーケティング」や「マーケティングのデジタル化」、「マーケティングDX」といった流れは、必ずしも企業のマーケティング活動を起点に始まったことではありません。

 始まりは消費者のデジタル化でした。特にスマートフォンの登場と浸透によって、購入や消費を含む消費者のさまざまな行動が随分とデジタル化されました。SNSに関連した広告、D2C、コンテンツ消費、サブスクリプション、リモートワークはどれも消費者の日常がデジタル化されたことに起因します。マーケティングのトレンドの多くは、マーケターがつくっているように見えますが、消費者の変化に呼応して起きています。

 国や社会、業界ぐるみで大きな労力や予算が投下されそうな領域や、社会生活のうえで変化しそうな事物は、これから無視できない影響をもたらすことでしょう。NFTやブロックチェーンを含むメタバース、SDG’sやESG関連、ダイバーシティやインクルージョン、5G以降の通信技術の進歩、それらに加えてAI、教育、高齢化対策などはいずれも重要な領域だと思います。いずれにしても、技術そのものが大事なのではなく、そうした技術に人々の生活が適用し、変化していくことが大事です。

 こうした変化を把握するためには、とかく新技術や新機能そのものに目が行きがちですが、体験やベネフィット(便益)に着目することが役に立ちます。例えば、Bluetoothが登場した頃、多くの人々にとっては、何のために短距離無線技術が必要なのかあまり意味がわかりませんでした。しばらく経って、スピーカーやイヤホンがスマートフォンと無線でつながることでケーブルに引っかかることがなくなり、マウスやキーボードがPCと無線でつながることで操作の自由度が高まりました。これらの体験を通して、ようやくBluetoothの素晴らしさを理解できたのではないかと思います。



 同様に、これからも色々な新技術が導入されていくと思います。そして、それらが日常生活を変えていくことでしょう。イヤホンのケーブルがなくなるまで、それが邪魔だと感じたことはなかったかもしれません。でも、実際になくなると、もう元には戻りたくありません。Bluetoothという機能は、身軽に音楽を聴き、すっきりしたデスクで作業できるというベネフィットを提供してくれました。

 新技術の機能にばかり注目するのではなく、そうした機能によって消費者がどのようなベネフィットを体験ができるのかを想像してみると、マーケティングのヒントが垣間見えてくると思います。

※連載音部で「壁打ち」の質問も募集中!音部大輔さんが皆さまからの質問に答えてくれます。こちらでお待ちしています。


 
 
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