2023年 注目のマーケター・企業が語る展望 #01

トップマーケターが語る2023年の展望【石戸亮、音部大輔、世耕石弘、富山浩樹】①

  原材料費や物流コストの高騰、歴史的な円安、新型コロナウイルスなど、2023年も非常に不安定な時代となることが予測されます。そうした変化の激しい時代に、マーケターはどう対応していくべきでしょうか。トップマーケターが「2023年の展望」を語ります。
 

「変化対応力」と「決断力」


石戸 亮 氏
小林製薬 CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)

 2023年やマーケティング業界に限った話ではありませんが、「変化対応力」と「決断力」がさらに重要になる年だと思います。ここ数年は、外部環境として予測不可能な感染症、人間の力では簡単に制御できない環境問題、国と国との武力衝突など多くの変化やニュースがありました。そして、インターネットを通じてリアルタイムで世界中の情報が把握できるようになり、人間の情報処理や価値観、判断基準が更に変わってきていると思います。加えて日本企業であれば円安、原材料調達の遅れや価格の高騰など利益に直結する変化が著しいです。

 その中で、自分の見えている範囲で目先の仕事だけをしていると、組織が良かれと思って決断したことに対して、その変化に振り回されているように感じてしまうこともあるかもしれません。一方、組織内だけで仕事をしていては、経験値も限られてしまいます。そのため、社会の動き、組織の方針、顧客の価値観、判断の変化をできる限り自分ゴト化し、心身ともに「変化対応力」を身につけている状態であることが重要だと思います。また、会社や組織の枠組みに囚われない多様な経験や学びから、「決断経験値」を高め、失敗を恐れない決断力と意思を持った行動が重要になってくると思います。
 

職住同一


音部 大輔 氏
クー・マーケティング・カンパニー 代表

 100%リモートワークである企業は減りつつあると聞きますが、週に数日は自宅から勤務するという「職住同一」は2023年以降も続きそうです。コロナ禍により一時的に仕方なく閉じ込められているのではなく、主体的な日常の選択として在宅時間を増やすなら、「住」の優先順位が高くなるのは必然です。この変化は、多方面で重要属性の順位転換を促して、市場創造の追い風が吹きそうです。

 住の変化の影響①:衣やライフスタイル
住み方やそれに関連した働き方、移動の仕方、学校の選び方などの大きな変化は、ライフスタイルにも大きく影響を与え、服飾やインテリアなどの考え方にも波及するでしょう。

 2022年の前半くらいまで、私自身は実体のないバーチャルの世界の服を買う、などということはないだろうと思っていました。ところがある日、衣替えをしているときに「ネクタイはオフィスという、いまとなっては少しバーチャルで特殊な世界のアイテムだった」ことに気付いてから、見解を変えました。人が集まるところが世界であるなら、そこで自分自身を表現することの価値は今まで通りに大事にされそうです。匿名で参加するならデフォルトの服装でもいいかもしれませんが、固有名を使うなら自身にふさわしい姿で存在したいと思います。

 住の変化の影響②:食や社交
バーチャルな空間で食事は摂れないので、オフラインに戻る必要がありますが、食事を純粋に栄養補給ととらえる考え方が出てきました。そもそもオンライン上の同僚と仕事をしているなら、そのまま一緒にランチに行く、というわけにもいきません。「仕事の多くが情報の処理と交換であれば、仕事場はオフィスでなくてもいい」ように、「食事の目的が栄養素の摂取であれば、料理されたものでなくてもいい」というのは、どこか似ていると思います。「いいランチ」を定義づける重要属性の順位が変化しているようです。「早く食べられる」という属性は以前から重要でしたが、「効率よく栄養素を摂取できる」というのは新しい提案です。

 味覚を中心に五感を使う食体験や、一緒に食事をする社交などは重要な活動でした。対面の仕事が減ったように、同僚とのランチなどの身近で社会的な食事は減るかもしれません。(そもそも社交のために行われていた食事はその限りではなさそうです。)「住」の変化に端を発し、人と人の関係のつくり方が変わっていくことで、「衣」や「食」など人間活動の根本的な領域で、いままでにない属性順位の転換が進んでいくのではないかと思います。
 

「真のマーケター」になるために


世耕 石弘 氏
近畿大学 経営戦略本部/本部長

 私はいまだに、大学生にマスクの常時着用、食堂での黙食、飲み会の制限などを強いている側の大学職員です。しかし、2022年サッカーワールドカップ カタール大会では、テレビに映し出されたノーマスクで熱狂する観客をなんの疑問もなく見ていました。私は完全に矛盾しています。

 2023年はこの矛盾だらけの世界が待っているでしょう。政府が感染対策の相当な緩和に踏み切ることは世界的情勢に鑑みても間違いはありません。ただし恐らく民間側の我々は、周りの目を恐れながらゆっくり緩和してく流れかと考え、これも矛盾しています。勇気のある者だけがこの矛盾をいち早く解消し、その勇気の要る役割を担える者が「真のマーケター」となるのではないでしょうか。
 

2023年はOMO元年


富山 浩樹 氏
サツドラホールディングス
代表取締役社長 兼 CEO

 2023年は、本当の意味で「OMO元年」になると思います。OMO(Online Merges with Offline )は今までも言われてきましたし、各社取り組んできました。このコロナ禍でも、モバイルペイメント、フードデリバリーサービス、飲食店などでのモバイルオーダーサービス、医療側でもオンライン対応が解禁になるなど、さまざまな業界で拡張され、大きな兆しは出てきました。ただ、まだまだWeb側と我々リテールのようなリアル側の企業には分断があり、サービスの多様性とその可能性は現在のレベルではなく、キャズムを全く超えてないと感じます。それがアフターコロナで人々が本格的に活動していくこと、Web側もリアル側も単独では成長が厳しくなってきたこと、リアル側は人手不足が爆発してオペレーション不全に陥ること、国のデジタル化方針で規制緩和が行われていくことなどが複合してOMOへの対応が業種業態を超えて不可欠になっていくでしょう。

 そして、その複合したUXづくりは、まだまだ発展途上でありバックシステムやオペレーションの変革も必要になります。私は今年2回の米国視察を経て、OMOにおける日本の遅れを強く感じました。日本は欧米から1年以上遅れてコロナが明けると共に、OMOも夜明けを迎えると思います。

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