TOP PLAYER INTERVIEW #34
小林製薬 のCDOに就任。石戸亮氏が描く次の展望とは?【インタビュー】
予想もしない出会いと珍しい存在の石戸亮
――ちなみに、1年ほど前に小林製薬に携わるようになったのは、どのような経緯だったのですか。
そのきっかけは、本当にたまたまファミリーマート エグゼクティブ・ディレクター チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)の足立光氏に呼ばれてバーに行ったら、そこに社長の小林さんがいたんです。話を聞くと、足立さんと小林さんは元々はお仕事関係で出会われたそうですが、10年来の友人だそうで、東京に出張に来るときはお食事をするような親しい間柄だったようです。
正直、最初はどこの小林さんだか分からないまま、お互いの趣味のキャンプなどの話をしていましたが、名刺交換をしてみたら小林製薬の社長で驚きました(笑)。そのときに、CDOと書かれている私の名刺を見て、小林さんが「これからDX推進していくのだけど、まだ手探りだから月に1回くらいミーティングに参加してもらうことは可能か」と打診をもらったんです。そこから少しずつ仕事で関わるようになりましたね。
その後も、小林さんとは3カ月に1回くらいのペースで食事に行きましたが、どうやら小林さんにとって私は珍しい人間だったようです。私は仕事のときも基本的にパーカーにジーパンといったカジュアルな服装をしているのですが、小林さんとの会話の中で、「昨今デジタル人材と言われているような人たちは服装は自由であり、こういう恰好でなければデジタル人材が採用できないし、私も自由ですね」と言ったら、小林さんは「そうなんですね」と妙に納得されていました。
実際に、パイオニアの採用面接でベンチャー企業に勤める候補者の方と面接をした時、私がカジュアルな恰好をしていたから自分も働くイメージが湧いたと言ってもらえたことがあり、何人も採用している、と小林さんに話したところ、それが決めてかわかりませんが、小林製薬でも「服装自由化」が2022年2月に制度化されました。さらに、同月の決算説明会資料の中で、ESGの重点取り組みの中の「従業員の多様な働き方を推進」という箇所で記載されていました。
ほかにも、デジタル人材系の職種は人気なため、かつ多様性のある働き方をする人が多く、私もそうですが多くの人が副業・複業をしています。そのため、副業がOKでなければあまりデジタル人材は集まらないと言ったら、それも同タイミングで制度化されていましたね。
小林製薬に新しい風を吹き込み、実行まで伴走していく
――小林社長にとって、石戸さんは新しい刺激となる人だったのですね。小林製薬に入社後は、どのような役割を担っていくのでしょうか。
小林製薬は、2020年発表した中期経営計画の中で、2030年には全体で2800億円、うち海外では900億円の売上を実現するという目標を定めました。その目標を達成するための柱として4つの取り組みを掲げています。
そのうちのひとつにDXがあり、主に私はその部分に携わっていきます。1月には、社内IT(情報システム)を推進する組織である販売システム部と生産システム部に加え、新設したDX推進グループが加わる形でCDOユニットという組織が新設されました。その中で、IT活用によって社内の業務改革を行い生産性の向上を更に推進したり、全社員のデジタルリテラシーを高め、DXによる「あったらいいな開発」の刷新と、デジタルを搭載した新製品の創出等々、106期である今期の前半には方針、戦略、ロードマップなどを整理する予定ですのでこれから決めていくことも多いですが、小林製薬としてこれから必要であるデジタル戦略や実行を推進や支援していく役割を担っていきます。
- 補足:「あったらいいな開発」とは、お客様も気づいていない潜在的なニーズ(あったらいいな)を発見し、スピーディーに開発、タイムリーにお客様にお届けすることです。あったらいいなと思うアイデアを創出する仕組みとして、社長から新入社員まで職種や社歴に関係なく全従業員が参加できる1982年から40年間続いている「アイデア提案制度」があり、小林製薬の文化として根付いています。従業員から生み出されたアイデアの中からは、大ヒット製品に成長したものも数多くあります。2022年は約57,000件の新製品や業務改善アイデアが提案されました。
それ以外にも、中期経営計画のひとつの大きな柱であるグローバル展開のさらなる強化や、デジタル人材の採用と育成、ベンチャーとの協業やM&A、デジタルマーケティング、コーポレーションコミュニケーションなどにも携わる予定です。さらに、今後は幹部や現場、経営企画部、広報・IR部、人事部などと連携して、デジタル戦略を練ってやるべきことを整理し、4月くらいにはある程度の方針を出せるようにしたいと思っています。
小林製薬の素晴らしいところは学びながら、私個人としては、これまでと同様に自然体で、複業やカジュアルな服装といったベンチャー企業のような働き方で、小林製薬に新しい風を吹き込み、多様な働き方のひとつを示せればと思っています。自分らしく働きながら、組織一丸で結果を出していきたいです。
――経営や事業の全般にわたって、幅広い役割を担っていくのですね。
そうですね。DXやデジタルというとHow toにばかり目が向きがちです。しかし、基本的には、まず環境や社会や顧客の変化や動きがあり、会社の歴史や資源、戦略や社員一人ひとりの想いがあります。それを実行するためにデジタルが必要になるという流れが本来の形で、世の中的にほぼデジタルを使わないことはないと思いますので、Howも大事ですが、WhyとWhatはとても大事です。そのため、会社の目指すべき姿を議論しながら、CDOユニットが持つデジタルの知見や経験を使い、中期的なあるべき姿からバックキャストで実行にまで踏み込んでいくという役割を担っていきたいと考えていますね。