TOP PLAYER INTERVIEW #34

小林製薬 のCDOに就任。石戸亮氏が描く次の展望とは?【インタビュー】

 

次のステージに向けて、トップの考え方や会社を変えていきたい


――小林製薬における、石戸さんの展望を教えてください。

 小林製薬は、1982年から続くアイデア提案制度によって、社員から年間5万件以上のアイデアを集めています。私が新卒で入社したサイバーエージェントもインターネット産業における新規事業創出力は圧倒的であり、文化そのものでしたが、メーカーではこれほどに新商品想像力のある会社は小林製薬の右に出る企業はいないと思っています。これによって、小林製薬は新しい市場や商品を次々に創出し、世の中にたくさんの変革をもたらしてきました。メーカーとしてこのような圧倒的なアイデアや商品創出力や文化があるので、そこにデジタルの力を加え、もっと素晴らしい文化にしたいと思っています。

 DXと言われる領域において注意点もあります。小林製薬に限らずですが、実は誰かに言われずとも、すでにさまざまな会社や組織における部署や個人でデジタル化が進められています。20年以上前からICT活用と言われているので既視感のある方もいるでしょうか、とはいえインターネットの普及でビジネスユーザーでもローコート・ノーコードの多様なツールやアプリケーションを活用しやすくなったのは大きいです。これはDXの中でも根本的な会社のトランスフォーメーションというより、デジタイゼーションやデジタライゼーションの領域が多かったりします。DXにおける罠もいくつかあると思っていて、目指すべきビジョンや戦略の具体性、ロードマップ、開発レギュレーション、育成プログラム、評価制度などが無いと、DXがバズワード化して、パッケージシステムや市民開発アプリのサイロ化や曖昧に進むPoCが知らず知らず散財してしまい、企業としての非競争領域に無意識のうちに工数とお金を使ってしまい、逆に生産性が低下も起こりえます。そこで小林製薬においてはCDOユニットの役割として、経営の戦略やロードマップ(Why/What)と既に社内でも各所で進むデジタル化や様々な実行やHowをうまくつなげるということに取り組まなければいけないと思っています。
   
サラリーマンとしての展望を語る石戸氏

――石戸さんは、個人で「肉バル×アヒージョ Trim」を経営したり、エンジェル投資家として活躍したりと、いろいろな顔を持っていると思います。その中で、会社員としてはどのような役割を果たしたいと思っているのでしょうか。

 会社員であっても、会社経営をしている感覚と何も変わらないですね。最近言われている言葉でいうと両利きの経営的なところは意識しています。

 私は今まで、サイバーエージェントでの子会社経営やDatoramaの日本法人立ち上げの経験から会社のナンバー2的な意識で、トップである社長がやりきれないところを役割や職域を超えて、補うようにサポートして、組織成果を出すために行動してきました。特に、ナンバー2がしたいかわかりませんが、おそらくそういったことが得意なんだと思います。ナンバー2はトップにけっして迎合せず、とはいえトップやそして社員のフォローワーでありリーダーシップも必要だと思っています。経営と現場・顧客の両方は常に意識しています。

 また私は、「配慮はするけれど忖度はしない」タイプだと思います。この考えに至ったのは、私の過去の原体験があります。私は、サイバーエージェントのときに初めて男性で育児休暇を取得しました。当時のインターネットベンチャーは、相当なハードワークの時代。私もそういった環境の中で、失敗経験は若いうちにたくさんした方が良いですし、裁量権を持って、圧倒的な仕事量で経験をどんどん重ねたいと思い、ネットベンチャーというありがたい環境で必死に働いていました。ただ、子どもが生まれたことをきっかけに、「自分は何のために仕事をしているのか」と自分自身の仕事と人生を見つめ直したんです。どうすれば仕事の成果を落とさずに育児や家族との時間も充実することができるのか。

 そこで考えた結果、私は勇気を振り絞り、1人目の子どもが生まれたときには、「水曜日だけは5時半に帰りたい」と言い、2人目のときには「育児休暇を取りたい」と言いました。10年前に厚生労働省がイクメンプロジェクトを打ち出してからこの十数年年で育児に対する企業の考え方や取り組みがだいぶ変わってきましたが、正直、当時の組織ではどちらのときも難色というか困惑を示されました。なぜなら平日そんな早く帰社する社員もいなければ、男性で育児休暇を取得した人が一人もいなかったので周囲に忖度して子供や家族を優先した言動がしづらかったのです。育児休暇に向けて、当時はパソコンの持ち帰りや在宅勤務は情報セキュリティの関係上不可でしたので、万が一のために、休暇中でも1日1回はメールをチェックしたり、リモート会議ができる環境を情報システム部門と整えたりして、結果的に成果を落とさずに希望を叶えることができました。実際は育児休暇中はチームのみんなが頑張ってくれたので、ほぼ仕事をせずに育児休暇取得をすることができ、その後続々と男性育児休暇も増えていきました。この経験から、会社と忖度なく会話をし、しっかりと物事を進めていけば環境は変えられることを実感しました。

 その後、転職したGoogleは、理想的な働き方が実現できている会社でした。世の中には、こういう会社もあるのだと感じてから、私の役割は社会や組織の混沌とした状態をほぐして、あるべき姿にしていくことなのかもしれないと思って働いています。

 小林製薬が混沌としているわけではありませんが、社長は小林製薬が次のステージに行くためには、これまでのメーカーの働き方や考え方を刷新していく必要があると思っていますし、何名かの社員とも話しましたが、多くの社員もそう感じているようですし、そのような行動をしている人ももちろんいます。組織や人は変化していくものなので、とても健全だと思います。その中に私を入れるという小林製薬の決断は、社長自身や会社を変えていきたいというメッセージなのかなと思っています。

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