広報・PR #06

JAL アクセス集中でキャンペーン中止、原因は宣伝とPRの相乗効果の見過りにある?

 

「雲を掴むような話」なくらい難しい


 これは私の経験上の話になるが、売上や損益、コストだけではなく、事前にどのくらいの予約が入るのかなどの予測については、当然ながら入念に検討されていたと考えている。Forecast(売上/業績予測)を事前に行わない割引キャンペーンを、平気で実施してしまう企業はいない。今回の騒動の本質は、当初の予測が大きく外れた、つまり上振れしたことにあると考える。

「JAL スマイルキャンペーン」を企画・検討した部門(マーケティング・販促部門)でも、少なくとも「BEST」、「WORST」、「MOST LIKELY(最も可能性の高い)」という3段階のシミュレーションは行っていたことだろう。実際には、さらに細かい諸条件を設定していると思うが、企画者側が最も気にする数字は、「売上=成約数(CV)」である。潜在的な申込数やWebサイトへのアクセス数などについて、どのくらいの精度で予測していたのかについては疑問に思っている。

 私自身も本キャンペーンに関して、テレビCMをはじめとするプロモーション施策に、何度か接してきた。このような宣伝や広告活動を行う部門と、キャンペーン自体の企画や設計を行う部門は、一般的に異なる場合が多い。宣伝を行う部門は、限られた予算内で宣伝効果を最大化しなければならないし、短期間のキャンペーンの場合、年間を通じて抑えている大掛かりな広告枠は活用しにくい。そのため、結果としてリードタイムが短くクイックに掲載できるテレビCMや、オンライン広告を短期間に集中して投入することになるのだ。ここに企画部門の予測と上振れが生じる余地が多分にあるわけだ。

 ただ、本キャンペーンに関して上振れの原因は宣伝効果だけではないと考える。今回はANAが実施したキャンペーンの直後に予定されていたこともあり、ネットメディアを中心に事前に多くのパブリシティ(PR・広報)露出があった。単に広告出稿を行ったキャンペーンよりも多くの期待感(Pre-Demand)が醸成されていたと考える。いわゆる、これが口コミにあたる。このようなパブリシティに関して、大規模な企業では広報・PR部門が広告出稿とは別に活動を行うことも多い。

 宣伝活動とパブリシティ効果の事前予測は、非常に難しいのが事実だ。正直、「雲を掴むような話」だと、私自身いつも苦戦している。そして、広告出稿とパブリシティが別の部門で行われている場合で、特に今回のような過去に実施したことのない施策については、「このくらいのテレビCMを投入すれば、このくらいの予約がある」という見込みが立ちにくい。つまり、施策と効果の相関性が担当者の肌感として掴みにくいのだ。だから「雲を掴むような話」になるというわけだ。

 そのため、今回は宣伝とパブリシティ効果の相乗効果が効きすぎてしまった結果、本キャンペーンを企画した当初の予測を遥かに超える申込やアクセス数が出てしまい、大きな騒動になってしまったと考える。

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