【特別対談】企業マンガの可能性と未来 #01

広告よりも企業価値を伝えられる「企業マンガ」の可能性 【特別対談:コルク 佐渡島氏×ナノベーション 中野】

 『宇宙兄弟』の小山宙哉、『ドラゴン桜』の三田紀房、『働きマン』『ハッピー・マニア』の安野モヨコなど多数の人気マンガ家が所属するクリエイターエージェンシーのコルクと、日本を代表するマーケティングカンファレンスを開催するナノベーションが2023年1月から企業のブランディングを目的とするマンガ制作を共同で提供している。その活動の一貫として、コルク 代表取締役社長の佐渡島庸平氏が企業のマーケティング担当者と対談し、その企業への理解を深める連載がスタートする。

 第1回は、佐渡島氏の希望でナノベーション 代表取締役社長の中野博文が登場する。企業マンガを共同で提供することになった背景から、なぜ企業マンガが今の時代に求められているのかなどを議論した。
 

企業・マンガ家・読者の3者の幸せな関係を築く


佐渡島 ナノベーションと一緒に企業マンガを通してマーケティング領域をさらに盛り上げていきたいという考えから、今回の取り組みが始まりました。企業マンガ制作の提供というビジネス面の話はオンライン上のミーティングで済んでしまいましたが、ナノベーションがどんな会社なのかについては中野さんから大雑把にしか聞いたことがありませんでした。そのため、まずはお互いの思いなど、直接会って話したほうがいいと思い、この場を設けてもらいました。
  
コルク 代表取締役社長
佐渡島 庸平 氏

中野 昔からビジネス書を企業が出版社に依頼してつくるという手法はよくありました。でも、それをマンガという形態で出すのは、コルクの取り組みを知るまで考えたことはありませんでした。

佐渡島 正直なところ、以前の私は企業からお金をもらってマンガをつくるということはかっこ悪いことだと思っていたんです。もともと出版社に勤務して編集者をしていたので、自発的に何かをつくって世間を興奮させるほうがいいし、そこに挑戦したいという価値観でした。

中野 その考えがなぜ変わったのですか。

佐渡島 「新人マンガ家を育成したい」という思いが芽生えてから変わりました。昔のマンガ雑誌は、作家がつくりたいマンガを制作し、それを読者に問いかけ、アンケートなどを介して作品の感想を得ることができました。

でも、今の時代はSNSなどが普及したので、インターネットで作品を発表してから1時間以内にバズるかどうかが分かってしまいます。また、世の中で話題になっている事象を題材にするとバズりやすいので、マンガ家が本当は自分が何を描きたかったのかを見失いがちな環境になっています。

中野 世の中に振り回されてしまうわけですね。

佐渡島 そうです。だから、若手のマンガ家は「誰の何のためにマンガを描いているのか」がわからない状態に陥りがちなんです。一方で、企業マンガにはクライアントが存在するので、誰を喜ばせるかが非常に明確で、読者に何を伝えて、どのように心を動かすかという明確な目的があります。それにマンガ家が応えることで技術を上げられると考えました。

中野 なるほど、トレーニングの一種ということですね。

佐渡島 その通りです。私は「マンガ家をどのように成長させるか」、さらに「どうすれば、マンガ家として食っていけるようになるか」という2つの課題を常に考えているんです。

コルクを創業してすぐ『昼間のパパは光ってる(著:羽賀翔一 発行:コルク)』というマンガを出しました。このマンガは、「土木技術者」「土木に携わる人」を目指す人を増やしたいと言う要望があって制作したものです。なかなか良いマンガが完成して、業界の関係者からも「自分たちのマンガが売れた」とすごく喜んでもらえました。

現在、コルクではマンガの学校として「コルクラボマンガ専科」を運営し、年間で50~100人程度のマンガ家を輩出しています。将来的には、コルクがそのマンガ家たちのエージェントになるという構想を立てています。ただ、現在では仕事を用意できないという課題があるんです。

中野 なるほど。私もかつて出版社に勤めていたのですが、佐渡島さんが編集した『働きマン(著:安野モヨコ 発行:講談社)』の舞台が出版社だったので、読んで盛り上がった記憶があります。
  
ナノベーション 代表取締役社長 CEO
中野 博文

佐渡島 そうですよね。どんな業界の人も「自分が頑張っている仕事には大きな価値がある」と思っているのに、テレビCMの15秒だけではそれを伝えきれないんですよ。マンガならそれを伝えることができますし、読者も納得してくれます。企業・マンガ家・読者の3者が幸せな関係を築けると思うんですよね。

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