TOP PLAYER INTERVIEW #40

生活者の感情に触れ、記憶に残るCMをつくり続ける義務がある【リクルート 萩原幸也氏】

前回の記事:
リクルートは、なぜ社内にクリエイティブ集団を抱えるのか? 【萩原幸也氏 インタビュー】
「ホットペッパービューティー」や「Airペイ」、「Airワーク」などユニークなテレビCMやWeb動画がたびたび話題となっているリクルート。同社で、これらの施策のクリエイティブディレクションを手掛けているのがマーケティング室 クリエイティブディレクターの萩原幸也氏です。

 前編では、広告主としてクリエイティブ組織を内部に持つ強みから、クリエイティブが大きくジャンプするために必要なことまで幅広く紹介しました。後編では、人の記憶や印象に残るテレビCMの裏側と現代のテレビの可能性、萩原氏が大切にしている視点について聞きました。
 

人間の記憶や印象に残るCMを目指すために


―― 萩原さんが手掛けるテレビCMは、「Airペイ」をはじめ話題になるユニークなものが多いです。どのような考えで、制作されているのですか?
  
リクルート マーケティング室 クリエイティブディレクター
萩原 幸也 氏

 前編でもお伝えした通り、成功パターンから導き出した80点のクリエイティブでは満足せずに、もっと良くしていこうという意識を常に働かせています。

 人間の行動は、90%以上が無意識に行われているそうです。特に人が家でくつろいでテレビを見ているような状況では、言語や理性をつかさどる大脳新皮質はあまり動いていない、たとえ「これを今すぐ買うべきです!」とCMが流れても、ほとんど意識にすら入ってこないわけです。

 そこで必要になるのが、「おもしろい」「好き」「嫌い」など人間の感情に触れる要素です。人は情報と共に感情を動かされると、記憶に残りやすくなると言われています。そこで、感情が動くようなクリエイティブになる事を意識しています。

 ただ、過去に成功した事例をそのまま持ってきても、必ず成功するとは限りません。ある程度の理屈はわかっていても、再現性がない部分があります。逆に、いくら面白いCMができたとしても、戦略から逸れ、ターゲットに刺さっていなければビジネスゴールに結びつかず、意味がないのです。

 15秒という限られた時間で、基本的なことを押さえた上で、クリエイティブジャンプにより200点、300点を目指すということがとても難しいのです。ただ、これまでの経験から感覚的にできている気もしますが、そのノウハウを自社の組織やメンバーに蓄積することができるような組織体制をとるのは、正しいアプローチだと思っています。

 いろいろなクリエイター達と話すと、弊社含め「テレビCMが面白くなくなった」ということをよく聞きます。この前もTwitterで「YouTubeの動画を見るために、プロがつくったつまらない動画を見ないといけない」という投稿が流れてきて、非常にショックを受けました。

 生活者の立場で考えると、お茶の間で楽しくテレビを見ているときに、つまらないCMが流れてくるのは、当たり前に嫌ですよね。「広告」という字の通り、情報を広く告げることができれば、目的が達成されるのかというと、そうではありません。もしかしたら、認知という側面では達成できるかもしれませんが、それだけでは企業の都合で、視聴者の行動を促すことは難しいでしょう。

 テレビCMをはじめ、広告がつまらなくなっていると思われるのは、経済にとってもよくないことだと思います。企業で広告を担う担当者や、クリエイターには、楽しいCMや、企業のことを好きになってもらえるCMを届ける義務があるとも思っています。普段はこんな話、社内でもしないんですけどね(笑)。

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