TOP PLAYER INTERVIEW #40

生活者の感情に触れ、記憶に残るCMをつくり続ける義務がある【リクルート 萩原幸也氏】

 

現場の声を聞くことで情報の解像度を上げる


―― 常に消費者視点を持っていると感じたのですが、その視点をどのように収集し、CM制作に活かしているのでしょうか?

  私は、もともとグラフィックデザインの出身です。デザインは、そのプロセスの中に共感や観察があります。その商品やサービスを使う人に共感したり、観察をしたりすることがスタートです。

  たとえば「Airペイ」を使っているお店と使っていないお店があったときに、その違いはなんだろうと考え、食事に行きがてら話を聞いてみたりしていますし、取材に行ってインタビューすることもあります。私は、このような観察を多くやるように常に心がけています。そうすると情報の解像度やリアリティが全然違ってくるんです。

  加えて、制作したテレビCMが流れた後には、Twitterでどんなことが書かれているかチェックしますし、カンファレンスに出席してコミュニケーション量を増やし、様々な情報を得るようにしたりもしています。趣味と思われている方もいるかもしれませんが、私にとって情報の解像度をあげる重要なプロセスなんです。
 
Air ブランド・ビジョンムービー「商うを、自由に。」

―― 人と直接会うことで、情報の解像度を上げることは、クリエイティブジャンプにも繋がりそうですね。

 ある種の違和感をつくって人の記憶に残すことを意識しています。面白さは分解すると「共感」と「違和感」だと思っています。違和感が出すぎると、それしか残らなくなり、何だかわからなくなりますが、共感だけでも新しい発見がありません。そのため、共感と違和感のバランスはすごく大事にしています。

 生活者やユーザーをよく知っていると共感をつくる部分ではプラスに働きますが、違和感をつくる場合は、第三者的な視点をもっているクリエイターの力が必要になります。

 少しデザインの話になりますが、デザインの素養に構成的思考があります。分析的思考は、過去にさかのぼって要因や 法則を見いだして解を導きます。それに対して構成的思考は、これまで関係無かったような要素を組み合わせて、新しいものをつくるという思考プロセスで、これが得意なのがデザイナーやクリエイターです。まったく関係なさそうなものを組み合わせ、文脈を生み出したり、あえてズラしたり破綻させたりしますね。

 たとえば、デザイナーがチラシをつくるときには、まず必要最低限の要素でデザインを組みます。でも、それだけだと弱いので、強いビジュアルや新しい要素を入れます。そして、それら複数の要素をいかにひとつの世界に存在させるか、全体としていかに成立させるかを考えるわけです。

 私も会社のマーケティング活動の中で、戦略、ロジック、情緒、ブランドの世界観、経営視点、消費者視点、そしてクリエイティブの面白さなど、いろいろなものを1つにまとめるということに取り組んできました。めちゃくちゃ大変ですが、クリエイターこそがやるべきだと思っています。
  
クリエイティブの面白さについて語る萩原氏

―― 最後に、今後挑戦していきたいことや、個人としての展望をお聞かせください。

 まだまだ、いろいろなことに挑戦したいのですが、個人としては創造的思考を社会に広めるため武蔵野美術大学での客員研究員としての活動や、あと年内に書籍を出そうと思っています。それと「最近の広告はつまらない」という声を聞きますが、これは企業側の責任だと思います。JAAでアドバタイザーとしてやっている活動もそれにつながりますが、少しでも面白いと思ってもらえる広告をつくりリードすることで、業界を変えていきたいですね。楽しく。

 もうひとつ、コミュニケーションデザインに関わる人間は、もっと社会で活躍できる余地があると思います。素晴らしい価値があるのに活躍の場が閉じてしまっているので、もっと広げていきたい。私自身もコミュニケーションデザインの価値をもっと体現していかなければいけないと思っています。

―― 本日は、貴重なお話ありがとうございました。
  
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