広報・PR #07

スープストックトーキョー炎上対応は、なぜ称賛されたのか? 広報専門家がポイントを解説

 

感情や人間性を大切にしたコミュニケーション戦略


 今回のスープストックのように、企業のマーケティング戦略の意図から離れて、自分の都合だけで解釈してしまう顧客は多く存在する。自分に向けた商品・サービスだと思っていたが、実はそうでないと勘違いして、思わぬ炎上や不買活動につながる恐れもあるのだ。

 これはPelotonの炎上事例(2019年)が参考になる。Pelotonは、高級エクササイズバイクとその関連サービスを販売する米国企業だ。2019年のクリスマス広告では、夫が妻にペロトンバイクをプレゼントし、その後の彼女のフィットネスジャーニーを追った様子が描かれた。
 
Peloton bike Christmas advert | The Gift That Gives Back

 しかし、広告が公開されると、多くの視聴者がその内容に対して批判的な意見を持つことになった。プレゼントされたバイクによって、夫が妻に対して体型についてプレッシャーを与えていると捉えられてしまったのだ。広告に登場する女性が最初からスリムであるにもかかわらず、一部の視聴者は、広告が性別に対するステレオタイプを強化していると感じたわけだ。この例からは、広告や投稿のメッセージを明確にし、感度の高い問題に対しては慎重に対処することが重要だといえる。

 また、他にもターゲット転換に伴うリスクも考えられる。日本の外食産業において、ターゲット転換によって既存顧客から反発を招いてしまった事例として、ファミリーレストランのガストがある。

 2010年頃、ガストはメニューの刷新を試みた。ターゲット転換の狙いは、競合他社との差別化を図り、新たな顧客層の獲得を目指すことだった。メニュー変更の過程で、従来の定番メニューを削減し、より高級感のある料理や健康志向のメニューを提供することに重点を置いた。しかし、この変更によって、多くの既存顧客が好んでいた低価格でボリュームのある定番メニューは減少し、顧客の不満が高まる結果となった。新しいメニューは、新規顧客層にとって十分に魅力的ではなく、結果的に売上が低下した。

 ターゲット転換に伴うマーケティング戦略は、既存顧客のニーズや期待を十分に考慮することが必要である。この点において、今回のスープストックの事例では、適切な説明を行うことでバランスを保ちつつ新規顧客を獲得し、既存顧客との関係も維持する姿勢を示すことができた。


引用:Soup Stock Tokyo公式サイト

 失敗を避けるためには、顧客の声を聞き、変更に対する反応を適切に察知し、必要に応じて柔軟に対応することが必要になる。ガストは顧客の反応を受けて、再びメニューを変更し、従来の定番メニューを復活させるなどの対策を講じて売上の回復に努めた。

 最後に、今回のスープストックの事例を踏まえて、企業が予期せぬ「炎上」に対してどう対応するべきか、以下のポイントを挙げたい。
 
  • 企業理念や過去の取り組みを強調し、一貫性のある対応を行う。
  • 企業理念に基づいた具体的な取り組みを実施し、社会課題に対処する。
  • 顧客や社会からの意見を受け入れ、適切なコミュニケーションを行う。

 企業に所属するひとりのビジネスパーソンとして、コミュニケーション戦略を展開するときには、感情や人間性に焦点を当てることが重要である。顧客は単なる数字や統計データではなく、感情や個性を持つ一人ひとりの人間である。

 企業がコミュニケーションを行う上でも、その人間性を大切にした接し方が求められる。具体的には、ターゲットを明確に特定し、そのターゲットに対する理解と共感が不可欠となるのだ。企業が顧客や社会に対して感情や人間性に焦点を当てたコミュニケーションを行い、企業内部でも同様の取り組みを実践することで、企業全体が一体感を持ち持続的な成長が可能となっていくだろう。
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