TOP PLAYER INTERVIEW #39

小売とメーカー 協業の道は、どこにある? 音部大輔×郡司昇マーケティング対談

 Agenda note連載の音部大輔氏「音部で『壁打ち』」と、郡司昇氏「ニュースと体験から読み解くリテール未来像」が50回を迎える記念して、両執筆者による「メーカーと小売のマーケティング」をテーマにした対談が実現。

「近年、小売業界がマーケティングに目を向けだした」と語る郡司氏が問題提起し、昨今の大手メーカーやD2Cの動向から読み取れる変化や、今後求められる活動などについて音部氏と語り合った。
  
 

小売がマーケティングに目を向けだした萌芽


郡司 私の連載と同じく、音部さんの連載がまもなく50回を迎えることもあり、お声がけさせていただきました。私はドラッグストアでマーケティングに携わってきたので「小売の視点」から、一方で音部さんはP&Gをはじめメーカーのマーケティングに携わってこられたので「メーカー視点」からお話をお願いできればと思っています。
 
店舗のICT活用研究所 代表 / 小売DX合同会社 代表社員
郡司 昇

1999年 ランド設立。セイジョー(現ココカラファイン)とFC契約。 2007年セイジョー入社。調剤事業部課長、営業管理課長兼ココカラファインHD調剤担当で業務効率化・コスト削減・アライアンス等担当。2013年ココカラファインOEC社長就任。2016年ココカラファイン統合マーケティング部長兼任。 2018年4月~現職。各連載の他、Webサイトでも情報発信

音部 よろしくお願いします。
 
クー・マーケティング・カンパニー / 代表
音部 大輔

P&Gジャパン、マーケティング本部に17年間在籍し、ブランドマネジャー、マーケティングディレクターとしてアリエール、ファブリーズ、アテント、パンパースなどのブランドを担当し、市場創造やシェアの回復を実現。のちにUS本社チームでイノベーションの知識開発をマーケティングとして主導。帰国後、ダノンジャパン、ユニリーバ・ジャパン、日産自動車、資生堂など多様な文化背景、製品分野で、複数ブランド群を成長させるブランドマネジメント、組織構築、人材育成を指揮。2018年より現職。博士(経営学 神戸大学)

郡司 音部さんは、ご著書(『The Art of Marketing マーケティングの技法』)の中で、P&Gで洗濯洗剤「アリエール」のブランドマネージャーを務めていた頃のお話をされていますよね。当時は、花王の「アタック」が市場を席巻していた最中だったので、非常に苦労された、と。「アリエール」のコンパクトタイプの発売は1988年、私がドラッグストアで働き出したのは90年頃ですが、当時はまだまだ「アタック」が市場を席巻していたので、店頭で一年中「アタック」を山積みしていたことを思い出します。

音部 そうですよね。

郡司 その後、97年に「アリエール ピュアクリーン」や99年に「アリエール 漂白剤プラス」が発売されたあたりで、買ってくれるお客さんが着実に増えていき、マーケティング活動によって市場が変わったという感覚がありました。

一方で、私は97年に独立して小さなドラッグストアを開業しました。自分の店なので自分で商品を並べますし、全員のお客さんを自分で接客します。そうすると、「除菌タイプの洗剤は、常に同じ人が買っていくな」といったように、誰が何を買っているかが全て見えるようになったんです。

音部 リアルバスケット分析ですね(笑)。
 

郡司 はい。一般的に小売の人間はもともとマーケティング発想がないのですが、私は自分で店を出して、変わっていきました。たとえば、「血圧で困っている」と相談を受けて健康食品をお勧めした人には、使用後の感想も聞けるわけです。そうしてニーズを掴むことで、今度はメーカーや卸の展示会に行ったときに、お客さんが喜んでくれそうな商品があるから仕入れてみようとなるわけです。

そして、「同じような人にもおすすめできるな」とPOPを書いて展開します。そうすると、「実はこういう商品が欲しかった!」という人が出てきて、その商品が定着していきます。

音部 まさに、顧客理解と、セグメンテーションですね。

郡司 そうなんです。自分と同じように、小売業界も時代とともにマーケティングに力を入れ始めたと感じています。というのも、私がドラッグストアで働き始めた当初は、たとえば、家族共通でシャンプーや歯磨き粉を使っていましたが、それが年々パーソナルになっていき、お父さんはこのシャンプーだけれど、私と娘はこのシャンプーといった形で、1つの家族でも利用するSKUが増えていきました。その中で、メーカーからドラッグストアのバイヤーに対して、新しいセグメントに向けた新しい商品の提案があれば、バイヤー側も置かなければならないですね。
 

私は早くからマーケティングらしいことを意識していたとはいえ、個人レベルに留まっていました。でも、もし当時からメーカーさんと協業して認知を獲得するような努力をしていれば、たとえばファブリーズの市場拡大などにも、もっと寄与できていたのではないかと思ったりすることがあります。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録