TOP PLAYER INTERVIEW #39

小売とメーカー 協業の道は、どこにある? 音部大輔×郡司昇マーケティング対談

 

マーケティングにおいて、小売とメーカーは協業できるか


音部 なるほど。たしかにメーカーと小売が商品を一緒に育てていくことができれば、ハッピーかもしれませんね。でも、やはり両者の間には「職責の壁」があると思います。

ドラッグストアにとって「昨対を超える」、あるいは「今期の利益率を上げる」という観点からすれば、単なる1企業の1ブランドのマーケティングリーダーと何か一緒にやったところで、その影響力は大したことはありません。

ブランド側からすると、大手小売チェーン1社あたりの売上は10~15%、小さくても5%程度を占めていれば、その動向を気に掛けています。一方で、個店のドラッグストアで5%の売上を持っているメーカーがあるかといえば、おそらくないんですよ。そこに非対称性が生まれるので、お互いの関係が同等には、なりにくいですよね。

郡司 たしかに、両者の接点も小売のバイヤーとメーカーの営業だけで、マーケティング部門のメンバーが会うことは、ほとんどないですよね。
  

音部 そうです。ただし、単純に小売のマーケターとメーカーのマーケターに接点を持たせればいいかというと、そうではありません。小売のマーケターは、担当しているカテゴリーがメーカーの10倍は広いので、これもまたイーブンにはなりにくい。

その中で、メーカーと小売の連携を成功させるのであれば、そもそも連携によって何を成したいかが重要になるのではないでしょうか。

郡司 最近は、生活用品の大手通販サイトと消費財メーカーが共同で商品をつくったり、大手スーパーと飲料メーカーが共同で販促を行ったりといった動きはありますよね。

特に前者は協働でのプロダクト開発なので、それが売れれば、当然メーカーとしては嬉しいし、小売としても他にない独自商品ができるから嬉しい。ああいった取り組みが、もっとマスに展開する、小売企業とも実現できないかなと思うのですが。

音部 通販サイト向けのオリジナル商品は、ニッチだからできるんでしょうね。商品のコンセプト的に大容量でも売れますしね。
 

D2Cの台頭と、小売のこれから


郡司 では、次のような例はどうでしょうか? 昨今、ドラッグストアのマーケティングに変化を感じたのは、あるドラッグストアが全員向け販促を止めたことです。

ドラッグストアはスーパーと違って、利用用途が多様です。スーパーは基本的に夕飯の買い物をするお店ですが、ドラッグストアは、たとえば若い女性にとってはお気に入りのスキンケアブランドの新商品が試せるお店、中年男性にとっては晩酌のツマミを買っていこうと寄るお店、主婦にとっては卵や牛乳が一番安いお店です。人によって用途が全然違うので、その購買内容をPOS分析してみたら、年間購入額が多い人の半数近くは結果的に赤字客だったみたいなことが起こります。

一方、昨今はアプリなどでお店とお客さんが相互につながれるようになりました。そこで、全員向け販促をやめて、全体としては高めのプライシングにしたうえで、個別のお客さんに割引などのインセンティブを与えるという方法に切り替えました。そうすると、アプリを使う人は安く買えるけれど、都市部の店舗に訪れる人や中年男性などはアプリを使わないケースが多いので、高い値段で購入してもらうことができ、全体の利益率を上げることができたんです。

音部 なるほど。興味深いですね。
  

郡司 最近は、I-neが提供するヘアケアブランド「BOTANIST」が成長し、D2Cからドラッグストアも含めた小売に展開するといった事例も見られるようになりました。その中で、小売の在り方も少し変わってきているのではないかと思っています。

音部 今後、どういう方向に進んでいくとお考えですか?

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