TOP PLAYER INTERVIEW #39

小売とメーカー 協業の道は、どこにある? 音部大輔×郡司昇マーケティング対談

 

D2CはどこまでがD2Cなのか


郡司 私には2つ思うことがあって。ひとつは「D2CはどこまでがD2Cなのか」ということ。というのも、I-neやバルクオムなど、最初にD2Cとしてダイレクトに顧客とつながって成長したブランドは、そこで成功すると次にロフトや東急ハンズなどのバラエティショップに展開し、最終的にはドラッグストアにも商品を置くようになります。そうなると、販売のチャネルのウェイトがD2Cからドラッグストアチャネルに一気に変わるんですよね。

もうひとつは、「大手メーカーにとってD2C企業は、何なのか」ということ。D2Cだけのときは、ライバルではあっても、規模もそこまで大きくはないので、大手メーカーの目には入っていないと思うんです。でも、ドラッグストアで同じ棚に並び、それがいきなり上位のシェアを獲得したりするわけですよ。

音部 D2C企業をどう捉えるべきなのか。これは難しいですね。

郡司 そこまで来れば、もはや顧客情報を持ったメーカーですよね。顧客情報は商品開発に使えるので、D2CとしてのECチャネルは、持ち続けていくだろうと思います。

音部 テストマーケットにもなりますよね。

郡司 そうです。そうなれば、大手メーカーとしても、当然そういった動きをしていかなければならないという発想になるのではと思っています。ただ、それがうまくいくかといえば、そうではないと思うんです。

なぜなら、小売のバイヤーと常に会っているメーカーの営業が「御社、うちのチャネルを通さない商品に力を入れているよね」と言われて、すごくやりにくいんですよ。

では、どうすればいいのか。私が考えているのは、小売の棚でメーカーのD2Cサービスの紹介をするといった方法を取ること。モノを売るのではなく、メーカーの新しい取り組みを店頭で紹介するというWin-Winのサービスをつくればいいのではないかと思うんです。

音部 なるほど。たとえば、大手メーカーがD2Cブランドをつくったときに、小売に店頭サンプリングを手伝ってもらい、それ経由で売れたものは、最初の3カ月分だけ3%の利益を供与しますという仕組みだったら、有り得ない話ではないかもしれないですね。

ただ、小売の立場からしたときに、たとえば、化粧水ならほぼ確実に店舗で取り扱っている商品の売上と被るから、それを3%の利益率だけでやるのは嫌だとなる可能性もありますね。化粧水の売上が減ると、洗剤などの関連購買にも影響しかねないというリスクもあります。最初は自分で良いアイデアだなと思って話し始めたけど、2分で否定できてしまいました(笑)。
  

郡司 とはいえ、今後はいろいろなジャンルで成功するD2C企業が出てくる可能性がありますよ。

音部 はい。駅前のドラッグストアで1カ月に1個しか売れないようなニッチな商品も、国全体で束ねれば、30億円にはなりますよね。その規模の商品は、全国チェーンの店舗では展開できないけれど、ネット上であれば可能です。逆に、ニッチでないセグメントを狙うのであれば、D2Cでやる意味はあまりないと思いますね。

郡司 その通りですね。逆に、こういうのも良いかもしれない。小売の店からは棚落ちしたけれど、根強いファンがいるから引き続き発売はされていて、卸さんに在庫がある商品がありますよね。そういう商品は、お店がお客さんの注文を聞いて取り寄せるわけですが、それをもっと簡単に注文できるようにするんです。

受け取り拠点がお店なら既存の流通に乗せることができるので、ECで購入して個宅へ宅配するよりも流通費が安くなりますし、かつての競争に負けてしまったブランドの商品を復活させることができます。

音部 すばらしい。これがなくなると困るというファンがいる化粧品や、習慣性のあるお酒も、いいかもしれないですね。お酒は、おびただしい数の新商品が発売されますが、たまにものすごく気に入る商品があったりして、買えなくなると寂しいんですよね。かといってECサイトからダンボールで買うのもな…って。

郡司 そういうニーズを突いたアイデアです(笑)。
    

小売はベネフィットが近いメーカーと組むべし


郡司 最後に、今日の話をまとめると、まだまだ大手に限りますが、これまではチラシというプロモーションしかやってこなかった小売が、ようやくマーケティングに目を向けだした。そして、お客さん一人ひとりの嗜好に合わせた対応ができるようになってきたということがまずあると思っています。

そうなって初めて、マーケティングにおける小売とメーカーの対話が可能になってくるのではと期待しています。もちろん注目しているお客さんは違いますが、お互いに考え方を勉強するといったことが、ようやく成り立つ時代になってきたのではと思います。

音部 いいですね。「マーケティングといえば、チラシ」だった人が、そうではないかもと思い始めたことは、とても意義深いと思います。

マーケティングには、消費者の今の行動を是として、それに近づいていくアプローチと、消費者に働きかけてより良い生活を送れる方向を提案するアプローチの2通りがあります。前者がカスタマージャーニーで、後者がパーセプションフローとも言えるのかもしれません。

そうしたとき、今の消費者が必要としているものを取り上げるチラシは前者ですが、メーカーのブランドチームと組んで何か提案できるのではないか、新しい消費者をつくれるのではないかと考えるのは、後者です。では、小売の皆さんが消費者に新しく働きかけていくときに、どのようなメーカーと組むべきかを考えると、ブランドというのはベネフィットとターゲット消費者によって定義されているので、これらをなるべく共有するメーカーと組むと協議がしやすく、消費者にとっても意義のあるものにできると思います。

今日は、こうした動きが始まろうとしているのだなと、力強い明るい未来が感じられました。

郡司 小売とメーカーのマーケティングを考える上で、示唆に富んだ場になりました。ありがとうございました。

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