広報・PR #10

ビッグモーター不正請求問題の社長会見、広報のプロが見ると「どこがダメだったのか」

 

ビッグモーターの記者会見とその問題点


 7月25日の記者会見は本来であれば、「情報の伝達」と「責任の認識」を明らかにする場であるべきでした。しかし、ビッグモーターの記者会見は、これらの要素が欠如していました。同社の兼重社長が会見で示した内容は、主に以下の2点が問題でした。

・保険金不正請求の金額及び、不正請求に関与した従業員数を過小評価
・保険金不正請求が発覚した経緯を誤認

 これらの事実関係の誤認は、兼重社長が問題を軽視している、あるいは事実を隠そうとしているという印象を与えました。また、事実関係への認識を誤ることで、情報の「透明性」と「正確さ」が失われ、一般の人々やメディアの信頼を失う結果となりました。

 また、謝罪の不十分さも広く批判されました。兼重社長の謝罪は形式的に見え、具体的な再発防止策や責任の取り方を示すことがなく、再発防止策に対する言及が皆無でした。通常、謝罪には問題の深刻さを認識し、その責任を受け入れ、具体的な修正措置を示すという要素が必要です。これらが欠けると、謝罪は表面的になり、その真摯さが問われることとなります。
Agenda note 編集部撮影
 

ビッグモーターの広報対応における3つの大きな失敗


 ビッグモーターの広報対応の不備を「迅速さと正確さの不足」「再発防止策の不足」「ステークホルダーとの信頼関係の構築の不足」の3つの要素に分けて考えてみます。

迅速さと正確さの不足
 ビッグモーターの初期の沈黙は、広報対応の「迅速さ」と「正確さ」が欠けていました。一般的に、企業が危機に直面したとき、迅速かつ正確な情報提供が求められます。これは、危機が拡大する前に事態を収束させ、また公の信頼を回復するための基本的な対応です。しかし、同社はこの基本的な原則を守ることができず、結果的に問題をより悪化させることになりました。

再発防止策の不足
 兼重社長の謝罪会見で明確に欠けていたのは、問題が再発しないようにする具体的な対策の提示でした。企業が危機に直面した場合、問題を認め、謝罪するだけでなく、再発防止策を明らかにすることが重要となります。これにより、企業が問題を真剣に受け止め、同じ過ちを繰り返さないという強い意志を示すことができます。しかし、ビッグモーターの対応はこの点が欠如しており、その結果、信頼の回復が難しくなりました。

ステークホルダーとの信頼関係の構築の不足
 同社の広報対応は、企業とステークホルダー(顧客、社員、投資家、社会全体)との信頼関係の構築に失敗してしまいました。信頼関係の構築は、情報の透明性、誠実さ、そして対話を通じて行われます。企業が問題に直面したときには、早期に誠実な情報の開示を行うとともに、ステークホルダーとの対話を重視し、信頼関係を維持していくことが大切です。

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