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大正製薬、プロサッカー三浦知良選手のサントリーウエルネス広告めぐり問題提起。業界に詳しい専門家の見解は?
「業界の慣習を揺るがす事態」と議論を呼びかけ
2023年8月4日、大正製薬が広告会社のハットトリックに対して、プロサッカー 三浦知良選手の広告出演について訴訟を提起していたと公表した。
大正製薬はリポビタンDの広告シリーズで三浦選手を起用していたが、同製品の錠剤タイプ商品の広告について契約書に記載がなく、ハットトリックから同選手への広告出演が拒否された。さらに、競合企業であるサントリーウエルネスが同選手を錠剤タイプの健康食品の広告に起用したと主張している。
実際、サントリーウエルネスは2021年2月、同選手を起用し「年齢にも、年齢を気にする社会にも、負けない。」をメッセージとした広告を展開している。
これに対して、大正製薬は契約の競合禁止規定に基づき、同選手が競合製品の広告に出演することは禁止されているとして、ハットトリック社に訴訟を提起したが、裁判所は「錠剤」の文言がないため請求を認めなかったという。
大正製薬は、裁判所の判断に対して「業界の健全な社会常識に明らかに反する」と反論し、次のように述べた。
「当社を含め企業がスポーツ選手や芸能人を商品の広告に起用するにあたっては高額な契約金をお支払いしています。これは、業界の慣習として、出演者が競合禁止規定に基づき競合する他社製品の広告に出演しないことを当然の前提に、出演者とともに安定的かつ長期的に製品イメージを築き上げることを念頭においてお支払いしているものです。仮に他社の競合製品の広告への出演が許されてしまうのであれば、長時間をかけて、また、莫大な金額を費やして築き上げたイメージを競合他社に瞬時に奪われるおそれがあることとなり、これまでのように高額な出演料をお支払いすることは難しくなります。その意味で、本件はスポーツ選手や芸能人の広告起用にかかる業界の慣習を揺るがす事態といえます」
業界に詳しい専門家はどう見るか?
本件に関して、長年エステーの宣伝部長を務め、広告宣伝に詳しいかげこうじ事務所 代表/マーケター クリエイティブディレクターの鹿毛康司氏は、「テレビCMは多くの関係者の権利で作られています。出演者だけでなく、クリエイティブディレクター、監督、カメラマン、音楽家などの権利も存在します。誰かひとりでもその権利の使用を許可しない場合、CMは放送できないのです」と述べた上で、業界の紳士協定の重要性にも触れる。「もちろん最低限の法的ルールつまり、契約書で明確にその権利を決めることも重要でしょう。一方では、お互いの信頼に基づいた制作も現実には必要です。過度に細かく設定すればするほど身動きが取れなくなることもあります。クリエイティブには、信頼関係で自由度の空間を作る大切さもあるのです」(鹿毛氏)。
また、大正製薬はサントリーウエルネスに対しても「当社が長年にわたり起用中の三浦選手を自社の競合製品に起用するサントリーウエルネスの行為自体にも問題があります」との批判を強めている。
スポーツ業界のキャスティングに詳しいある専門家は、「両社どちらの立場も理解できますが、法的な契約書を最優先としつつ、競合商品に関しては緻密に取り扱う必要があります」と指摘。さらに「アスリートとしては、新しいビジネスチャンスおよび新たなアスリートの価値づくりのために、さまざまな場に出ることが重要」と述べた上で、「ハットトリックはサントリーウエルネスとの契約に問題がないと判断したわけですが、長年のパートナーである大正製薬への事前確認も必要だったかもしれません」とマネジメント会社の役割についても言及した。さらに今後については、「業界としては本件を教訓とし、より慎重な対応が求められるでしょう」と語った。
今回の問題提起は、広告界全体にとって、競合禁止条項や広告出演契約の解釈について新たな議論を引き起こす可能性がある。