広報・PR #12

ジャニーズ性加害問題から考える、広告会社の責務とは?

 

広告会社に求められる多角的な視点


 私がかつて広報PRの部門長であったときに経験したエピソードをひとつ紹介する。当時、聞いたことのないメディアから企画の持ち込みがあり、一見すると面白そうな内容であった。しかし、ハウスエージェンシーだった大手会社にこのメディアについて確認したところ、そのメディアとの関わりは避けたほうがいいとの助言を受けた。そのときは、面白い企画にも関わらず、どうして反対するのだろうかと疑問に思ったが、後になってそのメディアが問題を起こし、助言が正しかったことがわかった。

 広告会社の営業担当者は、ときに付き合わないほうがよい理由を自分の口からは言えない場合もあるが、大切なクライアント企業に対して、絶対に近づけてはいけない相手を事前にスクリーニングして排除するという企業防衛の役割も担っているのだ。

 ジャニーズ事務所のケースも同様だ。実際問題として、クライアント企業が芸能プロダクション内で何が起きているのかを把握することは難しく、芸能界について専門外であることが多い。だからこそ、広告会社の役割は重要であり、タレント起用時にも与信管理が必要である。今回のジャニーズ事務所の件においても、広告会社が防波堤として機能すべきだったのだ。

 このような視点から見ると、広告会社側の「クライアント企業を守る」という役割が機能不全に陥っている可能性がある。広告会社にとって最優先すべきは、クライアントである企業のイメージやレピュテーションを損ねないように、適切な与信管理を行うことである。

 広告界は、広告主、広告会社、メディア、消費者、そして社会全体を含む複雑なエコシステムであり、各要素が相互依存の関係にある。特に広告会社は、この多元的な関係性を理解し、多角的な視点で戦略を考える責務がある。

 ジャニーズ性加害問題は、広告会社の役割と責務に対する再考の契機とすべきである。広告主中心の戦略立案だけでなく、社会的および倫理的課題に対するより広範なインサイトの収集と社会性に基づいた対応が求められている。

 具体的には、短期的な成果だけを追求するのではなく、新しい評価指標を導入し、ステークホルダーとの連携を強化することが、持続可能で効果的な広告戦略を形成する鍵であると考える。このような多角的な対応が広告業界全体の健全な発展に不可欠であり、二度とこのような事件を起こさないように対策すべきである。
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