TOP PLAYER INTERVIEW #51

老舗の三越伊勢丹で都市型メタバースを実現。仕掛け人が語るビジネスパーソンに必要な熱意

 

挑戦することで気づいた三越伊勢丹のポテンシャル


――サービス開始から2年半ですが、現時点での成果を教えてください。

 明確に数字を開示するのは難しいですが、さまざまな人にご利用いただいています。主には、アバターのファッションやヘアスタイル、フェイスを自分好みにコーディネートしたいという人と、伊勢丹新宿店でのショッピングや、他のユーザーとのコミュニケーションを楽しむことを目的に参加している人です。

 一般的にメタバースは男性のシェアが高い領域なので、最初は女性ユーザーの獲得を意識しました。その結果、直近の男女比率は、女性が7割で、子どもにも使ってもらえる兆しがあります。今では10代未満、10~20代の若年層が24%ぐらいのシェアになっていて、若い世代に受け入れられてきている印象です。

 今大事にしているのは、投資コストを抑えながらじっくりとファンを増やすことです。CG制作の半分を内製化するなど、制作を外注する必要があるものを除いて、社内でつくるようにしています。



――サービスの拡大に、どのような点を工夫しましたか。

 アバターを使ったコミュニケーションツールのサービスとして、大衆化を意識して、長い期間での事業成長を指揮することを工夫しています。メタバースのゴールビジョンは、仮想空間の中で生活できるなど、さまざまなことがメタバースの世界で完結することです。ゴールはどの人が語ってもだいたい同じですが、そのゴールである山頂を目指すための登り方はそれぞれ違います。多くの人が使えるような「大衆化」からスタートするか、ゲーマー向けのニッチな領域にフォーカスするかのどちらかになります。そのため、ゴールだけに集中すれば大衆化を意識せずに、ニッチで質にこだわったサービスを出す方がいいと思います。

 しかし、それでは事業としての継続は難しく莫大な投資も必要です。私は15年から20年ほどかけたロードマップを考えていて、誰でもアバターを使ってコミュニケーシが取れる世界をゴールとしています。

 ただ正直、最初から大衆化に挑戦するか、初手はゲーマー向けのニッチな領域にフォーカスするかは悩みました。一方、現在のメタバースは一歩間違えると無法地帯になりやすい。「無法だけど楽しくて、ゲーマーが好きなもの」に寄せてしまうと、そのあと大衆化は難しいと考えています。

 親が子どもに使わせてもよいと思える状態を最初から目指し、キープしようと思いました。誰でも使える状態に到達できると思っているので、そこにすべてのリソースを集中しています。そのためにも、三越伊勢丹という屋号とブランドは有用でした。


REV WORLDS内の伊勢丹新宿店

 実は、2018年に社内起業制度で不採用となったとき、転職して他社で挑戦しようと思ったことがあります。たとえば、デベロッパーや不動産開発の企業です。でも、街を歩いていてデベロッパーの存在を意識することはあまりないので、消費者にとってイメージしやすいのは小売業なんです。また、ファストファッションの企業も考えましたが、アバターに必要な要素は服だけではなく衣食住のすべてなので、取り扱う商品の幅も必要です。

 そう考えたときに、初めて自社のポテンシャルに気づくことができました。デパートには衣食住の幅広いコンテンツがあり、消費者に密着しているため、安心安全の価値があります。また、新宿という街は多様性を受け入れるイメージが強く、メタバースの舞台として魅力的です。それゆえ、伊勢丹新宿店が最も成功確率が高いと本気で思うようになり、もう一度社内起業制度にチャレンジしました。

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