TOP PLAYER INTERVIEW #51

老舗の三越伊勢丹で都市型メタバースを実現。仕掛け人が語るビジネスパーソンに必要な熱意

 

たったひとつの出会いが今でも頑張れる動機


――新しい事業で、しかもメタバースの事業となると、実現までに困難なことも多かったと思います。それをどのように乗り越えたのでしょうか。

 若手時代に上司や先輩に「仮想空間をつくりたい」と話したときは、なかなか理解が得られず、「うちの会社の社風にあわない」など、かなり厳しいことを言われました。

 その後、入社7年目に、ECサイトのリニューアルプロジェクトが立ち上がり、仮想店舗型のECショップをつくる企画を提案しました。ただ、他の部署に協力をお願いしても信用してもらえず、話を真剣に聞いてもらえませんでした。当時は、他部署や他社を説得する実力が足りていませんでしたね。

 実現までは困難なことばかりでしたが、ある学生との出会いがあり乗り越えることができました。仕事で学生と出会う機会があり、その中にファッションデザイナーを目指す女の子がいました。彼女は「社会人になったらこんなデザインのスーツをつくりたいんです」と、目を輝かせて夢を語ってくれました。しかし、続けて「社会人になったら、売れるものを一番につくらなければいけないんですよね」とも言いました。

 私はその問いに対して、何と答えようかすごく悩みました。「そんなことないよ、自分の夢に挑戦しなよ」と言うのは簡単ですが、現実的には難しいです。では「売れるものをつくらなきゃいけないんだよ」と言わなければならないのか。



 昨今は、コストを抑えながら、売れ残りを減らすことがより一層求められるようになりました。その結果、商品の同質化が進み、価格競争も激化しています。そのため、売れるものをつくらなければいけないということはある程度、正しいのです。

 しかし、そのジレンマから解放されるフィールドが「メタバース」です。なぜなら、メタバースであれば、実際の商品やサービスはバーチャルのデータとなるため、在庫リスクなしに販売でき、流通コストもかからないからです。

 REV WORLDSだけではなく、メタバースでは在庫リスクを考慮せず、頭に浮かんだアイデアを実現できるという、クリエイティブファーストで取り組めることに可能性を感じています。それができれば、次の世代の子どもたちが夢を諦めなくてもよいのです。挑戦者が増えることでよりよいプロダクトが世の中に生まれる、そのサイクルをつくれる可能性がメタバースにはあると思います。

 私自身、最初は社内でも信じてもらえずに心が折れたことがあり、新規事業の立ち上げはつらいものだと実感しています。そのため、頑張る理由が必要なのです。私の場合、それはたったひとりの少女との出会いでした。そこからは誰に何と言われようと、こういう世界をつくりたいと口に出すようにしました。すると、賛同してくれる仲間が増えてきたので、他の部署にも助けてもらえるようになりました。



――これまでの経験から、経営やマーケティングにとって大切なことは何だと思いますか。

 私は経営者でもマーケターでもないので難しいですが、経営的な観点では収益を上げなければならない、つまり投資をコントロールする必要があります。私が取り組んできたことでいうと、内製化がその方法のひとつだと思います。マーケティングの観点では立ち上げ当時に、老舗百貨店の普通のサラリーマンがメタバースをつくったというギャップで注目され、それが知ってもらえるきっかけになりました。

 実感としては、伊勢丹のメタバースがどんなサービスなのかよりも、立ち上げまでのプロセスや思想が注目されることが多かったです。メタバースという先進的なサービスでも、どんな人がどういう思いでつくったか、というパーソナルな部分がマーケティングには必要だと学びました。魂を込めてつくらないとその手法は使えないので、「想い」がマーケティング効果を生み出す重要な要素だと思います。

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