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マーケティングにおけるスポーツコンテンツの価値 #01

メッシが踏んだ芝生が15ユーロ。スポーツビジネスの強みは、共感ストーリー【アビームコンサルティング 久保田圭一】

盛り上がりを見せるスポーツビジネス

  “スポーツビジネス”という言葉が、ここ数年でスポーツ産業に直接的に関わりのない企業にも浸透し始めた。言うまでもなく2020年に東京オリンピック・パラリンピックが開催されることが大きなきっかけとなっているのだろう。

 私自身も、まさにその一人。スポーツビジネスに本格的に身を投じたのは、5年前のことだ。

 確かに、スポーツビジネスの盛り上がりは凄い。スポーツビジネス関連のカンファレンスも頻繁に開催されており、どれも盛況のようだ。

 3年ほど前までの主たるテーマは、「スポーツアナリティクス」。チームや選手のパフォーマンスを、テクノロジーを活用して向上させることにフォーカスされていたように思う。

 参加者もリーグやチーム、大学、学生が多かった。しかし、この1年くらいで状況は変わってきている。カンファレンスで扱われるテーマは、よりビジネス視点にシフトし、マーケティングも主要テーマとして挙げられるようになった。参加者も一般企業の経営企画部門、新規事業開発部門、マーケティング部門の方が増えている。
 
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ロゴ掲出だけでは満足しない

 そんな中、マーケティングをテーマにした議論にはスポーツらしい特徴がある。「企業におけるスポーツへのスポンサーシップはどうあるべきか」ということである。

 端的にいえば、ユニフォームの胸の部分や背中に企業ロゴを出して何の意味があるのだろうか、商品やサービスの売上拡大に繋がっているのか、という問題意識である。この流れから、スポーツを活用して、既存事業の強化や新規事業を創り出すことができないか、という議論が活発になっている。

 そもそも技術革新やコモディティ化が進む中、消費者の嗜好・行動は激しく変化しており、企業は絶え間なく新しいことに取り組み、企業価値を高めなければならないという課題を抱えている。そのような環境で、2020年に向けて消費者の関心が高まっているスポーツの活用が注目されるのは自然な流れなのだろう。

 ロゴだけ出していても、もう満足はできないのだ。

 それではどのようにスポーツを活用していけばいいのだろうか。このテーマは各所で議論されているところだが、私のこれまでのスポーツビジネスでのコンサルティング経験を踏まえ、“これは外せない!”というポイントを紹介したい。
 

カンプ・ノウでの衝撃


 そのポイントの一つを説明するため、私が昨年バルセロナに行ったときの体験をお伝えしたい。

 毎年、ヨーロッパでは「Stadium Business Summit」というカンファレンスが開催されており、昨年はバルセロナで開催された。スタジアムツアーとして、メッシの所属するFCバルセロナの本拠地 カンプ・ノウを訪問したのだが、そこでは「使い終わった芝生」が売られていたのだ。



 ほんの少しカプセルに「芝生」が入っているのだが、15ユーロもするものだ。

「これはメッシが踏んだ芝生だよ」

 その時点で、そもそもバルセロナ、メッシの大ファンである私は購買意欲をとても煽られた。

「こっちは優勝したときの芝生だよ。20ユーロ。」

 もう買うしかない。廃棄するだけの芝に、物凄い価値を感じたのである。

 芝生そのものに価値はない。そこにバルセロナというチームは人々が共感するストーリーを与えた。メッシが踏んだ芝生、チームが優勝したときの芝生、という共感ストーリーだ。

 これこそが私にとっての価値なのである。「メッシへの憧れ、チームが優勝したときの興奮・感動」を呼び覚まし、私との“共感(Sympathy)”を生んだのである。
 
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