新時代のエンタメ舞台裏~ヒットにつなげる旗手たち~ #01
YOASOBIヒットの舞台裏、ソニーミュージックの仕掛け人が明かす発売プロモーションの秘訣
徹底して意識した「ファンの心理」
徳力 2人は謙遜して「タイミングがよかった」と言っていますが、当時は必死にいろいろ考えて動いていたんですよね?
山本 いろいろ考えはしますが、実はやれることはそんなにないんですよ。何か仕込んでおいたとか、狙い通りにこれがうまくいったということはありません。ただ、ひとつ意識していたことは、たとえば「バイラルチャートで1位になりました」「○○のプレイリストに入りました」といったニュースをTwitter(現X)で細かく発信していましたね。
屋代 それはたしかに意識していましたね。当時を振り返ってみると、本当に大量に投稿しているんです(笑)。
徳力 役割分担としては、どんな形で動いていたんですか。
山本 私は音楽周りやその他クリエイティブを担当しています。SNSや小説に関する出版社とのやり取りは屋代が担当し、プロモーションは2人で一緒に考えています。
徳力 2人からすると当たり前かもしれませんが、海外チャートをウォッチしている知人が私に「YOASOBIはよくチャートを見て、それをきちんとSNSで紹介している」と言っていました。
屋代 はい、日本だけではなく、海外のチャートも意識して見ています。順位が良くないチャートも紹介していましたし、「皆さんの力を借りて1位になりたい」と発信したこともありました。また、地方のラジオ局で流れたことや、ある学校の給食時間に放送されたということも投稿していましたね。
バイラルチャートで1位を獲得すると、ファンの人たちが「1位だから聴いてみて」と自信をもって発信できるんです。そういう意味では、何かしらのチャートで1位を取るというのは我々にとっては武器を得ることになります。そのようなファンの心理をかなり意識していますね。
徳力 ソニーミュージックは、インターネットが普及する前から成功しているレーベルで、ヒットの方程式を持っていると思います。一方で、そういう小さな成果もできるだけ紹介してファンに武器を与え、応援してもらうという取り組みもしているんですね。
屋代 会社として「こうやりましょう」「成功法はこうあるべきだ」といったことは、いい意味で教わらないんです。それぞれ個々に感覚を持っていますし、アーティストによってやり方が違うことが当たり前なんです。
私は入社してから3年間「着うた®」や音楽ダウンロードサービスに携わっていて、それこそiTunesランキングで「いま2位だから、あとちょっとで1位です」みたいな内容を当時出始めたばかりのTwitterでつぶやいたら、次の日に本当に1位になったということを体感しました。コロナ禍ではTwitter やTikTokなどSNSを見ている時間がとても長くなっていたので、投稿すればいつも以上に見てもらえました。なるべくユーザーの生活の中に浸透させようと思って、投稿の数にはこだわっていましたね。
徳力 もしかしたら他の人が見ると少し引くくらいの量の投稿をしていたと思いますが、屋代さんの中では大した数ではなかったと。
屋代 そうですね。さまざまなバイラルチャートでの動向をずっと見ている人は、私たち以外に誰もいないわけです。そのため、多くの人に教えてあげないといけないという気持ちでした。
山本 私はアーティスト担当をしている中で、ファンがまだまだ少ない新人でも、すごい熱量を持って投稿するとTikTokなどで話題になっていく現象を何度か見てきました。Ayaseやikuraなどアーティスト自身と我々がきちんとファンに情報を提供して、巻き込んで広めてもらう。仮にファンの人数が100人であっても、その100人それぞれに100人のフォロワーがいたとしたら、倍々で広がっていく可能性がある。そのため、100人しか見ていないから意味がないといった考え方はしません。