ファミマのファッションショー分析特別寄稿

ファミマはコンビニ業界初「ファッションショー」をなぜ開催? 小売マーケの第一人者が勝手に分析

 ファミリーマートは2023年11月30日、ファミマのチャレンジ大発表会と題した大型イベント「FamilyMart FEST.(以下、ファミフェス)」を国立代々木競技場 第二体育館(都内)で開催した。そこでは、同社のオリジナルアパレルブランド「コンビニエンスウェア」がコンビニ業界としては初となるファッションショーを実施し、世の中でも話題となった。今回は、小売マーケの第一人者であり、イトーヨーカ堂 アドバイザーを務める、Preferred Networks SVP 最高マーケティング責任者の富永朋信氏に「ファミフェス」を徹底的に分析してもらった。
 

3つの観点から「ファミフェス」に込めた狙いを推察


 2023年11月30日に、国立代々木競技場 第二体育館でファミリーマートが開催した「FamilyMart FEST.(以下、ファミフェス)」。イベント当日は、円形の未来的な店舗の周りにランウェイがあつらえられ、芸能人を含む様々な世代の人がファミリーマートのオリジナルブランド「コンビニエンスウェア」の新作を身に纏いながら、思い思いに歩いて回りました。ある人はファミチキを片手に、またある人はモデルさながらに、その様はとても自由でスタイリッシュなものでした。

 イベントでは、ファミマ向けにデザインされたNB(ナショナル・ブランド)の定番商品が紹介されたり、新規注力カテゴリーとしてコクヨとのコラボレーションによる文房具が発表されたりもしました。詳しくは、下のリンクをご覧になってみてください。
 
 富永朋信氏がピックアップしたファミフェスのリンク

▼ファミマのチャレンジ大発表会“ファミフェス”開催決定! コンビニ業界初のファッションショーも実施 TOKYO FASHION CROSSINGにて一般来場チケット抽選開始予定 ~11月30日(木)国立代々木競技場 第二体育館にて開催~(ファミリーマート)
▼ファミマ初のチャレンジ大発表会「ファミフェス」開催! 吉田鋼太郎さん、八木莉可子さん、ピース又吉さん、内田理央さん、 栁俊太郎さん、太田莉菜さんらとともに ストアスタッフや実際の家族が一同に会するランウェイや シンガーソングライター曽我部恵一氏率いるスペシャルバンドの演奏も披露!(ファミリーマート)
▼ファミマ「コンビニエンスウェア」前代未聞のファッションショー 加盟店スタッフもモデルに(WWD JAPAN)
▼ファミマがコンビニ業界初のファッションショー“ファミフェス”を開催! 大人気「コンビニエンスウェア」を着た吉田鋼太郎&八木莉可子もモデルとして登場(VOGUE JAPAN)
▼コンビニ業界初のファッションショー「ファミフェス」の舞台裏に迫る!デザイナーの落合宏理が語る未来型コンビニとは(VOGUE JAPAN)
▼ファミマが初のフェス開催 ファッションショーで見せたもの(日経クロストレンド)

 本記事では、3つの観点からファミリーマートがファミフェスに込めた狙いを推察し、その背後にある戦略に迫ってみたいと思います。
 

観点1:ファミフェスをファッションショーと捉えてみる


 ファミリーマートに限らず、コンビニエンスストアをコンビニたらしめているものは何でしょうか? この問いに普通に答えると、店舗の大きさ、そこから生まれる商品のホールディングパワー、および品揃えといった回答になります。

 では一歩分析を進めて、この中で「品揃え」に注目し、コンビニの品揃えを方向づける要素は何か考えてみましょう。それは「ショッピングミッション(来店目的)」に当たります。どんなショッピングミッションを持ったお客さまに来ていただくか、という想定から品揃えに対する期待が類推でき、それが商品選定の基準になるわけです。

 さらに一歩進めて、「コンビニのショッピングミッションは何か」を考えてみましょう。正しくは調査してみないとわかりませんが、直感的には「今必要なもの(=機能)を買い求める」がメインになるのではないかと思います。

 このショッピングミッションを充足するためには、カテゴリー内の品揃えが豊富にある必要はありません。「今必要」というニーズに対しては、醤油がヤマサであるか、キッコーマンであるかはさして重要ではありません。どちらかが品揃えしてあれば、よほどこだわりがある人でなければ甘受してもらえるからです。

 筆者が最近買った「今必要なもの」を思い返してみると、香典袋、夕方の腹の足しにするためのナッツ、スーパーに行く時間がないときに間に合わせの夕飯材料(納豆や卵、豆腐)を買い揃える、といったところでした。いずれも、複数の品揃えから吟味して買うというよりは、それぞれの商品があればそれでOKという買い方です。

 コンビニで淹れたてのコーヒーを扱う、ATMを置く、といったイノベーションが過去にありましたが、これはコンビニがカバーできるショッピングミッションを増やす(その結果あわよくばついで買いを誘発する)のが目的です。コンビニにとってショッピングミッションを軸に戦略を考えることの大切さがみて取れます。

 ところで「衣料品を買いに行く」というショッピングミッションに対して想起されるお店とは、どんなお店でしょうか? 無印良品? ユニクロ? たくさん存在するアパレル専門店などですか? 少なくともコンビニではありません。

 靴下や下着のような最寄品(=今必要、というショッピングミッションの対象になり得る)であればともかく、パーカーやデニムのようなファッション性が強いアイテムの買い場としてコンビニは候補に上がりません。そのため、お菓子や飲料の新製品を並べるような調子でそれらを棚に並べても、顧客は店舗に「今必要」というニーズを充足しに来店しているので、売りに繋げることはなかなかに厳しいのではないかと思います。

 そこで必要になってくるのがコミュニケーションによる「認知変容」と「態度変容」です。つまり「コンビニ=今必要なものを買いに行く場所」にプラスして、「衣料品を買いに行く場所」というリポジショニングを顧客の心の中に起こさなければならない、ということです。

 そのために最も効果的なやり方のひとつは、「ファミマが靴下や下着の枠を超えて本格的な衣料品に参入した。しかもイケてる!」ということを、ファッションのオーソリティに語ってもらうことです。

 ファミフェスをファッションショーと捉えたとき、その目的は「オーソリティに語ってもらうための情報発信」だと考えます。およそファッションショーなどを実施しそうもないコンビニがそれを開催した、という驚きに耳目が集まり、そしてそれが本格的かつスタイリッシュに創られていることをこぞってメディアやモデルなどが発信してくれ、それが世の中の「話題化」につながる、というサイクルを狙ったという次第です。

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