TOP PLAYER INTERVIEW #65
バーバリー契約終了からの黒字回復、三陽商会が成長フェーズで目指す「SANYO」ブランド構築
店舗とECで相互補完 浸透のカギは店舗スタッフのモチベーション
―― 昨秋には自社ECサイトを刷新し、「SANYO ONLINE STORE」をオープンさせていますが、どのような経緯があったのでしょうか。
以前は、「SANYO iStore(サンヨー・アイストア)」という三陽商会のECサイトと、Paul Stuart、EPOCAなど、ブランド独自で運営しているブランドECサイトがありました。それに加えて、EC機能はなくてもSANYOCOAT(サンヨーコート)、AMACAなど他のブランドが独自にサイトを持っていました。
SANYO iStoreは、在庫消化サイトとまでは言わないですが、セール中心の運営になっていたんです。また、ブランドごとに別々のECサイトを作っていたので、ブランド間の回遊性が低いという課題もありました。
それを統合することによって、お客様の買い回りの利便性を高め、SANYO iStoreにあったセールのイメージも刷新し、プロパー(正規価格)販売を強化しようということでSANYO ONLINE STOREを立ち上げました。
この自社ECサイトとZOZOTOWNさんなどの外部ECサイトあわせて、2025年2月期に91億円の売上を目指します。直近鈍化している外部ECについて強い成長を志向せず、自社ECを伸ばすことに注力する方針です。
お客様の反応から、買い回りのしやすさなど一定の成果は出せているかなと思っています。ただ、計画を発表した22年2月期と比べて10億円規模の売上高アップは、サイトのリニューアルだけでは難しい。EC専用商材の投入や、OMO(Online Merges with Offline)の推進によって、リアル店舗との相互補完関係を築く必要があります。
OMOの面では、TRY&PICKという店舗試着サービスに力を入れています。ECで気に入ったけれど素材感やフィット感を確認してから購入したいという場合、指定した店舗に商品を取り寄せ、試着することができます。逆に、店舗にないけどECには在庫があるというケースでは、店舗で決済できるというサービスも数年前から行っています。
―― 急速にOMOを進めている印象ですが、リアル店舗に馴染んだお客さまや、店舗スタッフたちには浸透しているのでしょうか。
正直、難しさはあります。店舗とEC、それぞれの部門の売上目標というのがありますから、EC部門がECのことだけをやると、店舗の売上が下がってしまうではないか、という声は昔から社内でありました。やはり店舗をメインとする企業ですから、店舗側の意見は大切です。しかし、それだけでは全社的な利益につながらないし、投資の回収も進まない。店舗とECの垣根を、お客さまだけでなく、まず社員の意識から無くす必要がありました。
そこでTRY&PICKのように、ECから店舗にいらして購入された場合は、ECの在庫であっても店舗の売上成績に付けるという仕組みにしました。また、店舗のお客さまが商品を見たけれど「今日はいいわ」と買わずに帰られるとき、見ていただいた商品をEC上でも購入できるように、QRコードを付けた「商品紹介カード」をお渡しするようにしています。それを経由してお客さまが購入された場合も、評価は店舗側に付けています。
店舗スタッフがECサイトに自らの写真を掲載し、リアルなコーディネートを提案する施策も、アパレルではもはや珍しい取り組みではなくなっています。ブランドイメージのビジュアルではなかなか伝わらない、等身大の体型に合わせたコーディネートは、ECでの購入時の参考になります。スタッフスナップを経由した売上は毎期ごとに伸びており、有力なコンテンツであることは間違いないので、当社でも強化しているところですが、全国800ある店舗のうち、スタッフの参画率はまだ10%にも達していません。店舗の人数や品揃えの多寡など事情はありますが、まずは20%くらいを目標にしていきたい。スタッフスナップを見てお買い上げいただいた場合も、そのスタッフにインセンティブを持たせることで、モチベーションにつながるようにしています。
三陽商会はアッパーミドル層を対象にした高品質な商品を得意としており、数万円する商品をECで気軽に買って、というのはなかなか難しいです。リアル店舗を基軸としつつ、ECと相互補完することでお客さまの利便性を高め、ファンをどんどん増やしていかなければなりません。実際、店舗とECの両方をご利用くださるお客さまの購入額は非常に高く、どうやったら「クロスユース」を広げることができるか、ECのチームだけでなく、店舗スタッフも一緒に検討するミーティングを月1回開催しています。店舗とECの垣根を少しでも無くすための会議体です。
お客さまと店舗スタッフ、会社の「3方良し」を築くことが、OMO推進に不可欠と考えています。ただ、まだ課題はあり、たとえば現状はECと店舗で在庫を二元管理しています。店舗で欠品してもECに在庫があればすぐ店舗に送る仕組みになってはいるのですが、やはりお客様がほしいと思ったタイミングで店舗にないと、売り逃しにつながってしまいます。マーケティング&デジタル戦略本部は物流部門も管轄しているので、次のステップでは在庫管理の一元化をしていかないといけないと考えています。