TOP PLAYER INTERVIEW #65

バーバリー契約終了からの黒字回復、三陽商会が成長フェーズで目指す「SANYO」ブランド構築

 

顧客に寄り添うマーケティング、LTVと廃棄削減両立目指す


―― 三陽商会はブランドごとに店舗を構えているので、一般にブランド名で知られているイメージがあります。一方、ECストアや、2023年にオープンした初の複合型ショップ「SANYO Style STORE」のように、「SANYO」を前面に押し出した施策も積極的に展開しています。これから増やしたい「ファン」というのは、ブランドのファンでしょうか、三陽商会のファンなのでしょうか。

 両方だと思います。特定のブランドのファンでもあるけれど、お客さまの動向をよく見ると意外と、三陽商会の複数ブランドを「買い回り」されているということも分かりました。 CRMによって、そういったファンとなってくださるお客さまの購買行動をきちんと深掘りして、潜在的なニーズを掘り起こしていく必要があります。

 2013年に創業70年の企業タグラインとして「TIMELESS WORK. 本当にいいものをつくろう。」を策定し、得意とするモノづくりの上にブランドのメッセージを乗せてお客さまにご提案してきました。ただ、今はその得意に甘んじるのではなく、お客さまとのタッチポイントを増やして、相互コミュニケーションを通してその変化をしっかりキャッチし、LTV(顧客生涯価値)を高めるマーケティングに転換しようとしているところです。

 お客さまのニーズに寄り添うというのは、当たり前のようですが、三陽商会の原点でもあります。戦後、物資の少ない中で防空暗幕の材料を用いてつくった紳士用のレインコートが、コーポレートブランドである「SANYOCOAT」の第一号となりましたし、1947年には戦時中のパラシュート生地から着想を得てオイルシルクの婦人用レインコートを発表し、大流行しました。この婦人向けオイルシルクのレインコートは、2023年に設立80周年を記念して開催したアーカイブ展でお客さまの注目を引き、購入や復刻版を希望される声もあったことから、現代版にアレンジした「シルクレインコート」として開発・販売につなげました。花粉対策機能を備えた「花粉プロテクトコート」も、祖業であるコートでお客さまに役立ちたいという思いから、機能や装いとしての楽しさを取り込みながら進化を続けています。

 婦人服4ブランドを集めた初の複合型ショップ「SANYO Style STORE」は、2023年に全国5店舗に展開しました。これまでは、百貨店で三陽商会のブランドが隣り合っていたり、直営店で複数ブランドを置いたりということはありましたが、今回のようにそれぞれのブランドの特徴を打ち出しながら、同じショップに複合するというのは初めての業態で、大きなトライアルのひとつです。たとえばAMACAのジャケットが欲しいというお客さまに、「TRANS WORKというブランドがあって通勤にはこちらがおすすめです」というように、ブランドの垣根を越えて、お客さまのニーズに合わせてご紹介させていただけます。まだ試行錯誤の段階ですが、売上は伸びてきており、各店舗に地域特性を持たせることで相乗効果をもたらせるのではと期待しています。
  
SANYO Style STORE富山大和店

 コロナ禍でブランドが撤退した百貨店のスペースを効果的に活用するという意味もあり、百貨店を中心として成長してきた総合アパレルブランド企業として、提供できる強みでもあると思っています。

―― 近年の「長すぎる夏」や、廃棄品による環境負荷など、アパレル業界特有の難題もあると思います。顧客に寄り添ったマーケティングとどのように両立するのですか。

 2023年は夏の猛暑が長期化し、突然真冬のような寒さになりました。季節の変化に機動的に対応し、また廃棄削減を進めるために、まずは生産の段階から予算の使い方を工夫しています。仕入予算を最初から100%消化してしまうのではなく、20%はプールしておく「20%プール制」を導入し、完売しそうなところには残りの予算ですぐ追加生産ができるようにしつつ、仕入れたけど大量に売れ残るといったことがないようにしています。インベントリーコントロール(在庫管理)に関しては、弊社はまだ十分なデジタル化には至っていないのですが、コロナ禍後は特に、企画チームにこの20%プール制の徹底を指示し、ほぼ廃棄ゼロを達成しています。

 また、商品の品番数(種類)も半分ぐらいに抑えるようにしました。売上を伸ばすために従来、網をかけるようにいろいろな種類をつくっていましたが、実際は上位20~30種類くらいの商品が、売り上げの約半分を占めていたのです。

 そのため、種類を減らして一つひとつの商品をブラッシュアップし、クオリティを上げる方針に転換しました。やはり、商品あってのブランドなんですよね。その原点に立ち返って、ブランドの顔・代名詞となるような商品づくりに邁進しています。月1回の商品開発委員会を立ち上げて、全ブランドの責任者のほか、マーケティングやデジタルの責任者も参加して、お客様が何を求めているのか、侃侃諤諤、議論しています。

 サステナビリティーへの取り組みはもちろん重要で、衣料品回収などのサーキュラーエコノミーの実践のみならず、環境負荷の低い素材だけでつくるスペインのブランド「ECOALF」の販売によって、企業としてもメッセージを発信しています。

 一方、適切なMD(マーチャンダイジング:商品の販売計画)や在庫管理による廃棄削減は、環境への貢献という以上に、アパレル企業として、売り逃しを防いだり、商品としての鮮度を保ちプロパー価格で売り切ったりという、利益を逃さないための非常に重要な施策と考えています。季節の移り変わりや、お客さまの動向を見極めることで、たとえば百貨店で売れ残りそうだったら、すぐに百貨店からアウトレット店舗に送るといった連動性を機動的に判断する。そのことが利益の最大化と、結果的にブランドの価値を守ることや廃棄削減などを両立させることにつながります。そういった考えを全社的に共有し、具体的な施策に落とし込んでいっているところです。

―― 店舗とEC、ブランドの垣根を越えて顧客に寄り添うマーケティングは、LTV向上や廃棄削減など、あらゆるサステナビリティーへの最適解ということですね。本日はありがとうございました。

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