アクセンチュア・ライフ・トレンドにみるマーケティングの指針

アクセンチュアが5つの生活者トレンドを発表、マーケティング目線で見えてきた「本物さ」の希求【解説:オイシックス・ラ・大地 奥谷孝司氏】

 コンサル大手のアクセンチュアは2024年2月29日、世界の生活者トレンドをまとめた年次レポート「アクセンチュア ライフ トレンド2024」を発表した。17回目となる今回は「解体と再構築の始まり」と題し、顧客との摩擦や生成AIといったトレンドを「愛を取り戻せ」「インターフェース革命」「創造性の逆境」「テクノロジーの飽和点」「成功神話の解体」の5項目に整理。記者会見では、テクノロジーの進化で効率化と均質化が進む中、多様化する顧客のニーズに向き合う企業が目指すべき方向性のひとつとして、「cLTV(顧客の体感価値)」の概念などを提案した。

 Agenda noteではこのレポートの内容を2回にわたって特集。前編の今回はアクセンチュアの発表内容を概説するとともに、オイシックス・ラ・大地 COCO /顧客時間 共同CEO・取締役の奥谷孝司氏に解説を寄せてもらった。これからの顧客体験とマーケティングにとって必須となる「本物さ」とは何か。奥谷氏や本レポートが提示する視座を、それぞれの企業や事業にどう生かせるか、考える一助としてほしい。
 

企業と顧客、テクノロジーの間で起こる摩擦


 レポートは専門家による知見や日本を含む21カ国15000人を超えるアンケート調査をもとに作成された。Agenda noteではマーケターが着目すべきポイントを独自にピックアップ。前提となる知識として内容を概説する。
  部屋に備えているベッドルーム

中程度の精度で自動的に生成された説明
出典:Accenture Life Trends2024

【トレンド1】「愛を取り戻せ」
 厳しい経済情勢から企業はコスト削減を余儀なくされ、値上げやサービス品質低下など摩擦を起こしている。顧客はカスタマーサービスの繋がりにくさなどに不満を感じ、顧客体験への投資削減を「企業のエゴ」と捉える声もある。
 
ポイント:マーケティングの基本に立ち返る
 顧客の企業に対する疑念が芽生え、コーズマーケティング(企業の販売活動と社会的大義と結びつけるマーケティング手法)の効力は低くなっている。企業は顧客体験に改めて焦点を当てる必要があり、マーケティングの「4P(Price ,Product ,Promotion ,Place)」は、ブランド成長に「バランス」が不可欠であることを思い出させてくれる成長の方程式。価格と体験価値のバランスを再調整する部門間連携やマーケティング戦略の見直しが重要性を増す。

【トレンド2】「インターフェース革命」
 生成AI登場でデジタル体験は無機質な取引から、知的で心が通うコミュニケーションへと進化。言語や障害も乗り越えるインクルーシブな交流の可能性も秘めており、インターフェースのあり方を根本的に変えようとしている。
 
ポイント:シームレスな体験価値最大化を
 データの価値を認識し、大規模言語モデル(LLM)に取り込んだ場合の価値を想像する。ブランドとしての一貫性とパーソナライズを両立させるため、自社ブランドを見直し、対話型AIインターフェースを用いて顧客理解を深め、シームレスな体験を最大化できる組織構造にする。

【トレンド3】「創造性の逆境」
 テクノロジーの介入や効率性重視の風潮により平均的なコンテンツが蔓延している。「ブランドのSNSコンテンツがどれも似通って見える」と答えた回答者は35%にのぼった。クリエイティブにおける生成AIの役割が大きくなれば、均質化は一層進む恐れがある。
 
ポイント:自社ブランドらしさを確立
 生成AIの使用には、ブランドを理解し、テンプレートを打ち破れる熟練のクリエイターが関与すべき。効率性よりも質の高い製品づくりに投資することで、凡庸さの中で際立つ独創性や存在感を発揮できることもある。コンテンツが溢れる時代、効率重視のKPIを追いかけるだけでなく、自社のブランドらしさを測るKPI(重要業績評価指標)を設定することで大胆な差別化を図れる。

【トレンド4】「テクノロジーの飽和点」
 急速に進化するテクノロジーに追い立てられ、混乱や無力感を感じたり、ウェルビーイングに悪影響を与えていると感じたりしている生活者は多い。敢えてアナログな生活に回帰するなどして自らのレジリエンス(回復力、しなやかさ)を高めようとする人々が増えている。
 
ポイント:テクノロジーの恩恵と弊害を見極める
 企業はテクノロジーが顧客や従業員に負荷を強要していないか、情報格差や倫理、ウェルビーイングとのバランスを見極め、考えておく。テクノロジー活用の選択肢を示すことで顧客の信頼を取り戻すことができる。

【トレンド5】「成功神話の解体」
 進学や結婚といったかつて「成功」を象徴したライフイベントの価値や形が問い直され、人々は長期的な人生設計に意味を感じなくなってきた。あらゆる世代で人生観の解体と再構築が起こり、従来のターゲット像やニーズは過去のものになってきている。
 
ポイント:顧客を捉え直し、柔軟に対応を
 性別や年齢、職業といったデモグラフィック情報によるターゲティングは意味をなさなくなる。顧客をあらためて調査し、企業は典型的なマイルストーンの消失や、変わりゆく顧客像にも柔軟に対応してチューニングできるよう、マーケティングプロセスや組織体制を整える。

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