TOP PLAYER INTERVIEW #66

資生堂がマーケティング組織を改編、生活者とブランドが共創する時代の「最適なチームの在り方」

 

新たな文化や市場をマーケティングで生み出す


――そのような外部環境の変化の中で、組織改編を行った一番の理由を伺えますか。

 それはワンチームでカスタマージャーニーをつくるためです。私たちはお客さまのデータを分析してマーケティングを行っても、データは過去と今のファクトしか表さないため、80点の価値提供に留まってしまうという課題を抱いていました。しかし、資生堂はこれまで「化粧水で肌を育む文化」や「美白」など新たな市場を広げてきたように、新しい文化や市場をつくることに強みを持っています。組織改編を通じて目指すのは、そういった動きをもう1度生み出し、お客さまに「さすが資生堂だね」と言っていただけるような新しい体験を届けることです。
  

 また、コロナ禍で外出ができない時期に、お客さまのメイクアップにも大きな変化が起きたという理由もあります。口紅類の売上は大幅にマイナスするなど、マスク着用や外出を控える流れで本当に大きな影響を受けました。それまでのマーケティングは、「事前に調査をして確度を高めたうえで、一気に投資してユーザーを拡大する」というやり方を採っていましたが、この出来事を機に、そのセオリーが通用しないことに気づいたのです。

 そこで、当時予定していたプロダクトの多くを白紙にして、それまでのように調査から行うのではなく、SNSなどの声から生活者の変化の兆しをつかみ、未来を想像しお客さまに新たに提供できる価値を考えて商品を開発しました。コロナ禍では、マスクで顔が隠れるからライトメイクでいい。ならば、簡単に塗れるBBクリームで、なおかつマスクにつきにくいものがいいのではと考えて、発案から4カ月というスピード感で「マキアージュ ドラマティック ヌードジェリー BB」を発売しました。結果的にこれがヒットしたことで、調査に時間をかけるよりもニーズの変化にタイムリーに答え、スピード感を持ってつくっていくべきだと気づいたタイミングでしたね。

――商品開発の流れが変化しているのですね。特に押さえておくべき重要なポイントは何でしょうか。

 昨今、「強いブランド」といわれるのは、お客さまの会話にのぼる、人と人との関係性の間に入れるブランドだと思っています。そのため、メーカーとして「これいいでしょ」という傲慢さや、嘘があってはいけません。お客さまが本当にいいと思ったものを発信していただいて、それが広がっていくのが理想的な世界です。

 その中で、当社は、素晴らしい技術を持っているにもかかわらず、必ずしもその事実を世の中に伝えきれていません。いま、お客さまの周りには誤ったスキンケアやメーキャップの情報も含めて、情報が溢れてしまっていて、それを信じている人もたくさんいます。当社が想いを持って真摯に開発している商品だからこそ、お客さまにとって有益で正しい情報を伝えて、それをお客さまから発話してもらいブランディングにつなげていきたいですね。

――生活者と共創し、UGC起点のコミュニケーションをするために、すでに行っている取り組みはありますか。

 美容雑誌とつながりのあるインフルエンサーさんたちに集まってもらい、商品開発の段階からコンセプトや実際のサンプルを触っていただきました。そこでは「私だったらこう紹介する」というアイデアがどんどん出てきたんです。ときには、色や香り、商品の名前まで、開発段階から当社のPRチームと一緒につくっていただくこともあります。

 また、ブランドによってはファンクラブがあり、デジタルでつながっているので、そこで商品名の案を募集したり、何人かに商品を体験してもらったりする取り組みもしています。スムーズに商品を生み出すことができますし、調査が必要ない点でも効率的な方法です。

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