日本の広告費

ネット広告費が45%も最適解とは限らない 電通「2023年 日本の広告費」の見方【ダイキン片山義丈、KDDI合澤智子、本田哲也】

 電通が2024年2月27日に発表した「2023年 日本の広告費」。総広告費は7兆3167億円(前年比103.0%)で、1947年の推定開始以来、前年に続き過去最高を更新した。2019年版で「テレビメディア広告費」を初めて抜いた「インターネット広告費」が、全体の45.5%にまで到達。デジタル化やアフターコロナの影響を如実に反映する結果になった。

 Agenda noteでは、マーケティング領域のプロフェッショナル3人に「2023年 日本の広告費」を読み解き、寄稿してもらった。それぞれの立場から異なる視点が提示される一方、メディアが多様化する中、最適なコミュニケーションの組み合わせを探る必要性が一様に指摘された。
 

目的達成に最適の組み合わせを、組織改変も必要

 
ダイキン工業 総務部広告宣伝グループ長
片山 義丈 氏

 媒体のトレンドや順位変動に目を奪われることはやめましょう。広告コミュニケーションにおいては、広告目的によって最適な媒体の組み合わせは異なり、その目的に合わせて最適な組み合せをできるかどうかが「広告目的達成の成否のポイント」となります。

 つまりインターネット広告費が3兆3,330億円(前年比107.8%)と過去最高を更新したからといって、自らの目的の達成においてインターネット広告を増やすことが必ずしも正解ではないのです。ただインターネット広告が伸びたことで、「安心・安全な広告出稿、広告品質の課題にきちんと対応する必要性」がますます増したことは非常に重要なポイントです。

 メディアが多様化している今、マーケティングコミュニケーションにおいては、広告(ペイドメディア)だけで目的を達成することがますます難しくなっています。インターネット広告だけ、広告だけで考えるのではなく、オウンドメディア・アーンドメディアを統合的に組み立ててマーケティングコミュニケーションを構築することが不可欠です。

 多くの日本企業においては、「広報」と「広告」、「デジタル広告」と「アナログ広告」が別の組織で運用されています。お客様からみればこれらはすべて同じ企業からのコミュニケーションであり、統合的にメディア戦略を立案実行するため、企業におけるコミュニケーション組織の統合も今後進めていく必要性は、ますます高まると考えています。
 

信頼性あるメディアは何か

 
KDDI ブランド・コミュニケーション本部 コミュニケーションデザイン部 部長
合澤 智子 氏

 2019年にインターネット広告費がテレビメディア広告費を初めて超えたことが話題になったとき、私自身はデジタルマーケティングの部署にいました。インターネット広告、データ活用の勢いというものを実感していた頃です。現在、私がいる「コミュニケーションデザイン部」はもともと「宣伝部」でしたが、今は改称してマス広告中心だった顧客コミュニケーションから、多様化したメディアを通じたインタラクティブコミュニケーションに発展しています。さまざまな情報源やデータからメディアトレンドを把握するようにしていますが、「日本の広告費」は過去からの推移、マクロトレンドを確認できる参考資料として注目しています。

 今回のレポートを見ると、インターネット広告が過去最高を更新してはいるけれど、昨年まで二桁成長が続いていた(※編集部注※2020年は新型コロナ禍の影響で一桁)のに対して、一桁になっています。ネット広告も少しずつ「頂点」が近づいているのかと感じました。
 
 レポートも指摘するように、CTV(インターネットに接続されたコネクテッドTV)の存在感が増しており、「au三太郎シリーズ」などマス広告を中心にブランディングしてきた私たちも非常に注目しているメディアです。特に若年層へのリーチでは、地上波とCTVでは1リーチした時の価値が違ってきます。誰に伝えるかによって、お客さまに合った届け方を使い分けていく必要があり、コスト・アロケーションがマスから移行してきているのも事実です。

 一方、メディアが多様化し生成AIも台頭するなか、お客さまの信頼度や視聴態度という指標では、デジタル広告はそれほど高くないということも分かってきています。デジタル広告はこれまでYouTubeやTikTok中心でしたが、CTVやリテールメディア、OOH(屋外広告)などにDX化が拡大しています。接点を広げていくためのメディアと、信頼性の高いメディアを見極め、コスト・アロケーションの面でもバランスを探っていかなければならないと考えます。
 

マーケティングの関心はPESOへ

 
本田事務所 代表取締役/PRストラテジスト
本田 哲也 氏

「インターネット広告費」のうちラジオデジタル広告が増加しているのは、企業のPR戦略の立案を支援する私としては非常に納得するところがあります。媒体としてのラジオというより、PodcastやVoicy、Radikoといったボイスメディアへの広告主の関心が上がっています。コロナ禍が明けてイベント関連の広告費が増えたことも肌感覚と一致します。

 一方、マーケティングやコミュニケーション領域を全体で捉えると、「トヨタイムズ」のようなオウンドメディアの開設も増えていますし、小売店が媒体社となるリテールメディアも台頭しています。

 マーケティング・コミュニケーションにおける企業の関心は、いわゆる「PESO」の最適配分に移ってきています。つまりペイド(Paid:広告)、アーンド(Earned:ニュースなど)、シェアード(Shared:SNSなど)、オウンド(Owned:自社媒体)の役割バランスをどう取るか、どのようにマーケティング費用を配分するか、ということです。ペイドが大半を占める本レポートは、全体の一角しか映していません。

 マーケティングプランを考える際、かつてのように広告代理店に丸投げするのではなく、自社でPESOに基づいて考えることを徹底しようと、専門部署を設けた大企業もあります。まずはアーンドメディアでPRできないかを考える思考を根付かせるなど、マーケティングのあり方の刷新です。日本はまだ、マス広告の文化が根強く残っており、なかなか理解が広がっていない実情もありますが、潮流は確実に変わっています。

 とはいえ、PESOのうち最も予算を使うのはペイドです。PESOのバランスとともに、ペイドでもデジタルとアナログの掛け合わせなど、最適な配分を総合的に考慮する必要があるでしょう。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録