アクセンチュア・ライフ・トレンドにみるマーケティングの指針

アクセンチュアのトレンド調査が提唱「cLTV」には、飾りではない具体的で現実的な方法論が求められる【解説:Repro 中澤伸也氏】

 コンサル大手のアクセンチュアは2024年2月29日、世界の生活者トレンドをまとめた年次レポート「アクセンチュア ライフ トレンド2024」を発表した。17回目となる今回は「解体と再構築の始まり」と題し、顧客との摩擦や生成AIといったトレンドを「愛を取り戻せ」「インターフェース革命」「創造性の逆境」「テクノロジーの飽和点」「成功神話の解体」の5項目に整理。記者会見では、テクノロジーの進化で効率化と均質化が進む中、多様化する顧客のニーズに向き合う企業が目指すべき方向性のひとつとして、「cLTV(顧客の体感価値)」の概念などを提案した。

 Agenda noteはこのレポートを2回にわたって特集。前編はアクセンチュアの発表内容を概説するとともに、オイシックス・ラ・大地 COCO /顧客時間 共同CEO・取締役の奥谷孝司氏が寄稿。顧客体験とマーケティングに「本物さ」が必要という見方を示した。

 後編の今回は、企業のカスタマーエンゲージメント支援ツールを提供するRepro取締役CBDO(最高事業開発責任者)中澤伸也氏に寄稿してもらった。中澤氏はアクセンチュアレポートと日本企業の実態が乖離しており、より現実的・本質的な方法論が必要と指摘した。
 

顧客とは誰か?「選択と集中」

 
Repro 取締役CBDO
中澤 伸也氏

 家電量販店のソフマップにて、7年間の店舗営業の経験を得た後、2000年にソフマップドットコムのリニューアルPJを担当。80億円強の年間売り上げを達成し、日経ECグランプリを受賞。ゴルフポータルのGDO(ゴルフダイジェストオンライン)にてマーケティング責任者、エクスペリアンジャパンでJAPAN-CMOを経て、IDOMにジョインし、デジタルマーケティングの改革を推進。2020年4月からRepro 取締役 CMO兼CPOを経て現職。

 BtoC事業における現在の日本の大手企業の収益状況を見るに、アクセンチュアのレポートにある「厳しい経済状況におけるコスト削減」については正直、実態との乖離を感じる。より深刻な問題としては特に、顧客接点チャネル(アナログ/デジタル共に)の「人材不足」が、顧客体験の低下や不満につながっているのではないかと考えられる。 同時に生成AIなどテクノロジーの進化により、新たなサービスやコンテンツの生産量は増加し、均質化していく。これにより他社との差別化は困難になっていくであろう。

 このような状況の中で企業はどのような顧客戦略をとっていく必要があるのか? アクセンチュアが提案する「cLTVの向上」などというテーマは、10年以上も前から提唱されてきた概念であり、多くの企業もその向上に向けて取り組んできたはずである。

 問題はリソース不足と、生成AIなどによる差別化の困難性が増していく中で、現実的にどのようにして「CX(顧客体験)」を維持・向上させ、「cLTV」を向上させていくのか、その具体的な方法論「メソッド」と、それを実行可能とする「基盤・仕組み」の構築にある。

 中澤としては、その解決に向けたキーワードは以下の3つにあると考えている。正直、やや過激な提言となるため、異論反論があることは承知している。

1) 顧客の「選択」と「集中」
2) 顧客は「なぜ貴方のサービスを利用し続けてくれるのか?」の理由の明確化
3) テクノロジーによる効率化と「ひとけ」をどこに使うかの選択

 まずひとつ目。そもそも「自社にとっての顧客」とは、誰であろうか? リソース資源、リアル店舗の売り場面積、ECのトップページファーストビュー、仕入れ可能な商品の幅と奥行きなどが、物理的に限られている以上、「全ての顧客のニーズに等しく応える」ということは現実的に不可能である。

 自社の顧客データを、ぜひ一度分析してみて頂きたいが、多くの企業においては20%~30%の顧客で「3年利益」の70%~80%が生み出されている可能性がある(いわゆる「パレートの法則」) 。

 これらの顧客群こそが自社の利益にとって「最重要な顧客」であり、「3年利益」が高いということは、すなわち「LTVが高い顧客」であり、まさに「お得意さま=御社に愛情を持っている顧客」に他ならない。であるならば、企業はこれらの顧客の愛情に対してこそ「愛を持って報いる」べきであり、限られたリソースを集中すべきである。

 つまり「顧客の選択と集中」を行うべきであると、私は考えている。

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