TOP PLAYER INTERVIEW #68

Visaに転職の里村明洋氏がマーケティングで重視する「ビジョン」と「正直に個性を出す」キャリア観

 

キャリアを決めつけずに個性を出す


―― 決済業界はさまざまなプレーヤーが増えて激変していますが、グローバル最大手のVisaはどのような姿勢で向き合っているのですか。

 Visa全体としては、自分たちを“network of networks”と位置づけています。パートナーと一緒に新しいキャッシュレスの世界を作って、リードしていく。競合するのではなく、全員でキャッシュレスの世界を広げていくというのが、Visaに課せられている一番大きなミッションだと思います。

 その時に、われわれは「王様」として構えるのではなく、「チャレンジャー」として挑戦し続けなければいけません。フィンテックやWeb3、クリプト(暗号資産)といった新しい概念が次々と出てくる中で、トライなくして世界を変えることはできないからです。チャレンジ精神をもって挑戦を続けていくことが、Visaに課せられた使命ではないかと思います。

―― 里村さんは以前、自著の『不適合から生まれたマーケティング』で、成功企業のやり方を他の企業にそのまま展開しようとしても上手くいかない、里村さん自身がそのような失敗をしてきたからこそ「自分で考え、より現実的かつ本質的な解決策を導くための方法を練り上げてきた」と語っていました。Visaに入社されて「不適合」を感じることはありますか。

 初めからそうですね(笑)。「不適合」だからいいんです。今までやってきたことが上手くいかない時に違う視点が出てきたり、逆に今までやってきたことから新たな観点を提供できます。先ほど申し上げたマーケティング・ビジョンの言語化のチャレンジもそのひとつです。

 チームビルディングの観点では、メンバーには「それ面白そう」や「楽しい」と思ってもらって、それぞれの得意なことをやってほしい思いが強いです。もちろん会社として強化しなければいけないエリアはあり、だからこそ先ほどから申し上げている課題設定やビジョンが重要になってきます。「やらされてる感」よりも、「こういう世界をつくりたい」というビジョンがあれば、仕事が自分のやりたいことに変わってきます。もちろんそう簡単に、全員が一致して同じ方向を向くのは難しいので、1on1をしながらフォローアップをしていかなければなりません。

―― 里村さんは41歳でVisaの日本マーケティングのヘッドに就任されました。ご自身のキャリア観を教えてください。

 私自身「こうなりたい」という強い目標意識をもってここまで来たわけではなく、半分以上は偶然が重なってここに来たというのが実感です。なるべく柔軟に考えるようにしていて、出会ったチャンスや、その都度出てくる自分の感情に正直になって、チャレンジすることを忘れない。チャレンジをしてきているからこそ、転職も含めてある種の偶然がどこかで生まれる。なので、大きなキャリア観としてはあまり決めつけすぎず、偶然を大事にすることをおすすめしたいですね。

 また、「よい偶然」に巡り合う鍵は、パーソナリティ、つまり個性を出すことだと思うのです。マーケティングのナレッジやスキルセットは、大学や実務でも学べますよね。でもコミュニケーションやリーダーシップはユニークでなければいけないと思います。マーケティングにおいてはフレームワークや成功事例、リーダーシップ論などが重視されがちですが、私は正直、参考にすることはあまりありません。自分が思うことをやって自分の個性を出していくほうが、上手くいったことが多いし、周囲からも価値を見出してもらえるからです。

 ユニークさは、キャリアにおいてもブランドにおいても重視しています。私の場合、外資系の日本法人でマーケティングをどうマネジメントしていくかという点についてはある程度、経験値が積めてきているんじゃないかなと思います。それをさまざまな業種で経験することで、自分の知識の幅も広げて、ユニークさを増していきたいですね。

自分のパーソナリティをさらに遡れば、私は兵庫県尼崎市の魚屋の息子です。それだけで、大勢のサラリーマン家庭の子供たちと「自分は違う」と思う癖がついた気がします。お笑いが好きで、笑いながら仕事ができるような世界を作りたいと思っていて、そういう嗜好が私のパーソナリティであり、目立つポイント。だから一緒に働きたいと思ってもらえたり、周りからも価値を見つけてもらえる循環が生まれているのかもしれません。読者であるマーケターの皆さんにアドバイスを送るとしたら、「自分に正直に個性を出す」ということですね。
  
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