CATCH THE RISING STAR #01

「漫画でマーケティングに興味」 専門人材として「洋服の青山」SNS戦略中枢へ【青山商事株式会社:宮下奈旺氏】

 

SNSから購買への導線に苦心


―― SNSマーケティングの即戦力として活躍しているのですね。課題に感じていることはありますか。

 SNS経由でECサイトに来てもらえても、なかなか売上につながらないことです。導線をどう設計するか、どんな投稿文ならクリックされるか。上期下期のKPIのほか、毎週のミーティングで目標と成果を振り返りながら日々模索しています。

「今週は売上が立たなかった。どうしよう」と悩むこともありますが、「やると決めたら絶対に達成したい」という性格なので、悩むよりは目標のために何ができるか考えます。具体的には過去の数値の変遷を見て、どんな投稿なら売上に結びつきやすいか調べ、たとえばInstagramならフィードよりもストーリーズの方が売上につながりやすいことが分かれば、参考にしたりします。

 多くの社員と違って店舗経験がないことも、マイナスに捉え過ぎず、じゃあどうしたらいいのかなと考えるようにしています。せっかく1年目からマーケティング職で働かせていただけているので、即戦力になれるにはどうしたらいいかを自問しています。

―― 成果を感じることはありますか。

「洋服の青山」は全都道府県に店舗があるのですが、一般に紳士服や「ちょっとお堅い」というイメージを持たれていると思います。オフィスカジュアルも含めて幅広いレディースのアイテムがあることはあまり認知されていません。タレントさんを起用する施策では、まずはお店に来て知ってもらうことを目的として、「洋服の青山」にポジティブな感情を持ってもらうことを心がけています。今年4月に始めた「洋服の青山×モーニング娘。'24スタイルブックプレゼントキャンペーン」は、Web上で接点を持ったお客さまにお店に来てもらうことを促すOMO施策です。実際にSNSをきっかけにお店に来て、「こんな商品があることを初めて知った」とか「男性スーツのイメージだったけど女性向けのカジュアルな服もあるんだな」とか、Xでつぶやかれているのを見ると、一つひとつは小さいですけど、大きな手応えを感じます。

―― 仕事に生かすために普段、意識していることはありますか。

 私自身、服が好きなので、他ブランドも含めてよくECサイトや関連するSNS投稿を見て、自分が目を引かれた投稿を振り返るようにしています。特に気になるのは、洋服選びの基準に関する投稿ですね。

 大学時代に自分で「骨格診断」を受けたことがあって、服選びの基準の一つにしています。結果に過度にとらわれる必要はありませんが、自分の骨格と合う服を知っておくと服選びの楽しさが広がって、おすすめです。

 骨格診断のアイデアは、先ほどお話したスタイルブックキャンペーンにも生かされています。骨格診断をモーニング娘。’24の皆さんに受けていただき、それぞれの骨格に合わせたコーディネートをスタイルブックで紹介しています。

―― マーケティング専門人材として目指すことを教えてください。

 就活時代に自己分析した際、自分にとって一番楽しいのは「人にポジティブな感情を与えること」だと考えました。担当したSNS投稿を見て、お客さまが悩みを解決できるような商品にたどり着いて、プラスな感情が生まれるようにしたいです。

 また、マーケティングという仕事では、商品の本質的な価値を把握し、その価値を誰にどう伝えるかが重要です。SNSも誰に向けての発信かが明確になっていないと、誰にも響かないということがあります。投稿が誰にどんな未来をもたらせるのか、一連の流れを考えて実行することにやりがいを感じます。

 服装のカジュアル化が進む中、スーツ専門店である「洋服の青山」にわざわざ来ていただくにはどうしたらいいかも、社内でよく話します。「洋服の青山」の強みは何かと考えたとき、品質の良さや「ここで買えば安心」という安定感はある程度、定着しています。その上でカジュアルにし過ぎず、ちょっときちんと見せたい時に、働く人をサポートできる部分は大きいと思うので、その価値を伝えていきたいです。

―― 本日はありがとうございました。
 

【上司の視点】「新しいマーケター」に、試されているのは?

 
藤原 尚也 氏
青山商事株式会社 デジタルコミュニケーションヘッドオフィスゼネラルマネージャー

 大学などでマーケティングを学ぶ学生が増えましたが、いざ実務となると生かせないケースが多い中、宮下さんは学びを応用して実践する力と、新しいメディアに触れてきた経験を備えた「新しいマーケター」だと思います。

 モーニング娘。'24のプロジェクトには入社数ヶ月で加わってもらいましたが、自分で考えて資料を作り、芸能事務所と折衝するなど、社歴からは考えられない吸収力とアウトプットのスピード、レベルの高さに驚きました。Instagramなどを普段から使いこなしているので、どう使ったら顧客に訴求できるか、自然にアイデアを出して実行できます。私のような世代のマーケターには、真似しようとしてもなかなかできません。

 一方で、彼女に限らずデジタルネイティブ全般に見られることですが、たとえば店舗スタッフや在庫との連携など、リアルな部分について想像力が不十分な点があります。スタイルブックのキャンペーンでは、一回の購入、一個の施策で終わらせず、どうシナジーを生み出すかをかなり詰めたので、大変だったのではないでしょうか。

 彼女のような「新しいマーケター」は、生成AIなどのテクノロジーも自然と使いこなせるでしょう。そんな新世代のマーケティングに対して、上の世代のマーケターやリーダーは、いかに過去の経験を押し付けず、サポートして多様な経験を積ませ、バリューを発揮してもらえるかが問われます。試されているのは、実は私たちの方です。
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