TOP PLAYER INTERVIEW #69

人気ゲーム『桃鉄』学校への無償提供でα世代を取り込む、累計販売本数400万本突破に隠されたマーケティング戦略

 

企業がコラボしやすい『桃鉄』のさらなる可能性


「桃鉄」は以前から他社とのコラボレーションを多く行ってきている。たとえば、大丸百貨店とのコラボレーションは岡村氏にとっても衝撃的な出来事だった。「桃鉄」の作中に登場する「超丸デパート」は大丸百貨店をもじったと考えられるデパートだが、本家である大丸東京店が期間限定で「桃鉄に、大丸乗っ取られちゃいました。」と題して、ロゴ看板とショッパーを「超丸(CHOMARU)」に変えたのだ。
  

 さらに「桃鉄 教育版」のリリース以降は、さらに多くの企業とのコラボレーションが加速している。この流れについて岡村氏は、「桃鉄に広義の教育的効果があるから」だと分析している。

「桃鉄は、銃を打ち合ったり殴り合ったりするような種類のゲームではありません。ある種の『お行儀の良さ』がポイントとなり、従来ゲームとのコラボレーションはしにくい、保守的な企業でも『桃鉄ならばコラボレーションしてもいい』と判断していただけるケースがあるようです。そのような意味でも、教育版を出したことによる効果は大きいと感じています」(岡村氏)。
  

 当初、長期的な視点で多くの人たちに認知されることを目的に始めた無償提供であったが、「桃鉄 教育版」を提供してから、実際に小学生がいる家庭層からの売上増加につながっていることがアンケートの結果から明らかとなった。つまり中長期だけではなく、短期的なプロモーション施策のひとつとしても手応えを感じているそうだ。

 一方で、マーケティングとは全く別の観点から、ゲームや教育関連の人々を集めて行われているイベントが「エデュテイメント祭り! presented by 桃太郎電鉄 教育版」 だ。他のゲームタイトルとも連携し、ゲームの力で教育に貢献する取り組みを考える機会で、特別講演や活用事例が学べるワークショップなどを実施している。
  
「エデュテイメント祭り! presented by 桃太郎電鉄 教育版」のトークセッションで登壇した(左から)小学校教諭、『桃太郎電鉄 教育版』エデュテイメントプロデューサーの正頭英和氏、マイクロソフトコーポレーション インダストリーブラックベルトの田中達彦氏、コナミデジタルエンタテインメント シニアプロデューサーの岡村憲明氏。

「ゲームメーカーなどの企業側に対しては、無料で行うことの利点や価値を伝えることが大切です。余裕があるから社会貢献活動をするという、いわゆる“恩返し”的な意味ではなく、企業活動として教育関連の取り組みをすることが、短期的なマーケティングとして見ても効果があることをきちんと伝えたいと思っています。勉強に関しては、得意な子もいれば苦手な子もいます。特に苦手な子に関して、ゲームの側面から興味を持ってもらうことの価値は必ずあるはずだと信じています。教育分野に対して、エンターテインメント企業ができることはあると私は思います。30年間ずっとゲームの世界で生きてきて、ゲームの力を信じているのです」と、教育分野に対してゲームが与える可能性を岡村氏は語る。

 もちろん、ゲームタイトルの中には教育的な側面をもっているものもあれば、直接的にはないものもある。岡村氏は、あくまで企業単位、売上以外の側面も踏まえて、活動にしっかりと意味付けをして行うべきという考えだ。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録