CATCH THE RISING STAR #04
クラフトビール市場に新たな価値創出 サントリーマーケティング&コマース2年目マーケターの挑戦【柿崎優希氏】
先入観にとらわれず新商材開発
―― これまでの仕事で印象的な出来事はありますか。
昨年10月にクラフトビールの本場・米国にチームメンバーと視察に行ったことです。クラフトビール市場において、出荷数量シェアは日本ではまだ1パーセント程度ですが、米国では10パーセントを超えており、どちらも継続的に成長を続けています。日本でも最近、クラフトビールのブルワリー(醸造所)が増えていて、この市場に売り出す商材のヒントを得るため視察に出かけたのですが、そこで目にしたのが、先ほどもお話しした「名入れ」グッズの数々です。
特にサーバーでビールを注ぐ時に握る「タップハンドル」は、こだわりの色や素材で塗装すれば、クラフトビールを提供するビアバーにおけるブルワリーの看板替わりになります。日本ではまだ普及していないので、日本で製造販売する企画に結び付きました。
ところが、試作したタップハンドルはサーバーに差し込むネジ部分が取れやすいという問題が開発段階で発覚しました。製造者と相談して製造工程の工夫を繰り返し、さらに1年中使用しても大丈夫かどうかを、自分たちで確かめることに。1日80回ビールを注ぐとして、ハンドルを操作するのは年間約3万回にのぼります。私も1日2千回ほどハンドルを握り、チーム全員でハンドル1本あたり3万回の耐久試験を行いました。展示会への出品や営業提案販売を経て、通販で販売するために最終準備を進めています。
個人的には、実はビールに苦手意識を持っていたのですが、米国視察でブルワリーやビアバーを何軒も回るうち、自分の好みに合うものも分かってきました。自分もまだまだ勉強中ですが、タップハンドルという新商材をきっかけに、多くの人にクラフトビールの魅力を知ってもらいたいです。
米国視察でクラフトビールの魅力を実感(提供)
―― ビールが苦手だったからこそ、クラフトビールの多彩な魅力を実感されたのかもしれませんね。趣味や特技で、仕事に生きていると思うことはありますか?
これといった特技はないのですが…20年ほどボーイスカウトを続けていて、さまざまな世代の方々と関わってきました。色んな考え方に触れてきたからこそ、先入観なく、物事を見ることができると感じています。
商品を企画する上でも、「こうに決まっている」という先入観よりも、「かもしれない」という考えを持つことが大切だと思っています。
たとえば、「ブルワリーのグッズ」というと日本ではまだ敷居が高く、マニアックなイメージがありますが、名前やロゴを入れた「アクリルキーホルダー」なら金額的にもサイズ的にも来店者が購入しやすく、景品にするなど汎用性も高いのではと考え、ずっと販売したいと思っていました。「ブルワリーや飲食店でキーホルダーが売れるのか?」という社内の声もあったのですが、お店やイベントを訪問して販売以外にも景品用途もあることを実感し、「名入れスルーでも売れる可能性が高い」と思って最近、商品化にこぎつけました。予想以上のペースで売れていて、自分のアイデアでブルワリーやクラフトビールの楽しみ方が広がっていくのが実感されてワクワクします。今後も先入観にとらわれず、お客さまに楽しんでもらえる商品や企画を届けたいです。
―― これからの目標を教えてください。
お客さまのトータルサポートについては、まだやれることがあるのではと思っています。「販売して終わり」と考えるのではなく、販売後こそ積極的にコミュニケーションを取るようにして、購入商品を最大限活用いただき、お客さまの売上アップに貢献したいです。そして、その結果、再注文やSNSでのUGC投稿に自然とつながっていくような流れをつくりたいです。ひとつの解決策として、「名入れスルー」では注文した名入れグラスがお客さまの手元に届くまでの間に、上手に撮影してSNSに効果的に投稿する方法などをお伝えするリーフレットを、ダイレクトメールを送る取り組みをしています。
より大きな目標としては、これから長い目で見れば様々な部署も経験することになると思いますが、企画段階からお客さまの反応を見るまで一気通貫で担いたい、という軸はぶらさずに、いろいろなチャレンジを続けていきたいです。
開発に携わった木製タップハンドルとアクリルキーホルダー(左端)とともに
【上司の視点】現場に出て顧客解像度アップを
サントリーマーケティング&コマース マーケティング本部 市場開発部 企画開発グループ 通販企画チーム 課長
谷内 一樹 氏
谷内 一樹 氏
これまで当社のEC運営は、ある程度経験を重ねた社員や中途採用者が担当してきましたが、柿崎さんは珍しく新人で配属されました。マーケティング職かつEC担当というとデジタルマーケティングのイメージが強いですが、私としては、会社でパソコンに向かうばかりではなく、実際にお客さまと会ってきて欲しい。大事なのは、一口に飲食店と言っても居酒屋、喫茶店、バーなど色々ある中で、お客さまの解像度を高めることです。
サードパーティクッキーの規制などもあり、ECサイトでは広告の比率を下げていきたいと考えています。以前は受注や広告のチェックなどにリソースが集中しがちでしたが、これからはお客さまとのコミュニケーションを密にして、再注文やご紹介につなげていくことが重要になります。SNSはお客さまとの関係をつくる手段に過ぎません。
柿崎さんには、臆することなくお客さまとの関係性を築くポジテイブさと抜群の行動力があります。どんどん現場に出てお客さまの解像度を上げ、商品やサービスを改善していくサイクルを回してほしいと期待しています。
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