顧客満足を探究する~データと戦略の森から~ #01

帝国ホテルとスタバは似た傾向?最新研究から見えてくる顧客「感情」の重要性【新連載:青山学院大学 小野譲司】

 マーケティングにおいて「顧客満足」が重視されるようになって久しい。顧客ニーズの複雑化と商品サービスの均質化に呼応するように、ますます多様化するデータ、戦略があふれかえるマーケティングの森から、企業やマーケターは目指すべき顧客満足をどう探し当て、推進すればいいのか。

 Agenda noteの本連載は青山学院大学経営学部の小野譲司教授が、顧客満足度を業界横断的・継続的に調査するJCSI(日本版顧客満足度指数)調査のデータやさまざまな事例から顧客満足を学術的に紐解き、課題解決を目指すマーケターに科学的な視座と知見を提示する。第1回は同調査データから可視化された顧客の「感情」が、顧客体験やマーケティング戦略に与える影響について紹介する。
 

顧客満足度の3大目的


 「顧客満足」とは、製品・サービスの購入・消費を通して、顧客ニーズがどの程度満たされているかという心理状態である。この心理状態を何らかの測定手法を用いて表した数値が「顧客満足度」である。

 コールセンターやオンライン公式アカウント、店員に顧客が直接問い合わせやクレームなどを、口頭ないしテキストで伝えた「VOC(顧客の声)」は、一定のルールに基づいて分類されて、カテゴリーないしは重要度(あるいは緊急性)ごとに件数が数値化され、顧客満足度を表す指標とするケースも多い。

 消費者インサイトや市場機会を発見するマーケティングリサーチとは異なり、顧客満足度は自社の製品・サービスを実際に利用したユーザーが、どの程度満足したかを表す顧客視点の業績指標である。顧客満足度と同時に収集される各種のデータを通して、具体的にサービスの何が良かったか、何に不満があるかを把握し、顧客視点の改善・改良に活用することが第2の目的である。
 
青山学院大学 経営学部 マーケティング学科 教授
小野 譲司 氏

 慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程単位取得、2000年、博士(経営学)を取得。2011年より現職。JCSI(日本版顧客満足度指数)アカデミックアドバイザリーグループ主査(サービス産業生産性協議会)、日本商業学会学会誌「流通研究」編集長(2021-2022年)などを務める。専門はマーケティング、サービス・マネジメント、顧客満足度指数(CSI)の開発と活用。主として、顧客満足の理論的・実証的研究の観点から、CRM(Customer Relationship Management)、カスタマーエクスペリエンス(CX)、ウェルビーイングについて学術研究を行う一方、産学連携の共同研究やアドバイザーとして分析・提言を行なっている。主著に小野譲司・小川孔輔編著(2021)『サービスエクセンス:CSI診断による顧客経験[CX]の可視化』生産性出版、小野譲司(2010)『顧客満足(CS)の知識』(日経文庫)日本経済新聞出版社。

 さらに,実際に利用経験をもつ顧客の満足度は、リピートや推奨と関連しやすいため、客数,客単価,売上高といった業績指標と連動している可能性がある。それゆえ、顧客満足度の第3の目的は、KPI(重要業績指標)や業績予測指標として活用することである。昨今では顧客満足度のほか、推奨者の割合を表すNPS(正味推奨者比率)、再購買意図の強さを測るロイヤルティ、SNSでのフォローや投稿などの活動量で測ったエンゲージメントも同様の目的で用いられる。

 一方、企業の中には顧客満足の取り組みにおいて、単なる満足を超えてお客様に「感動」してもらうことを課題に挙げているケースも少なくない。同業他社の製品・サービスが横並びで同質化すると、機能や品質が「普通に良い」というだけでは、リピートも起こりにくく、ましてやクチコミや推奨もされにくい。それゆえ、驚きや感動を伴った体験づくりがキーワードになるというわけである。

 食事や旅行に行くきっかけから、衣服やデジタルガジェットに至るまでソーシャルメディアで情報を入手し、検索する時代において、実際に購入・消費経験をもつユーザーによるクチコミや写真の投稿を促進するうえでも、機能的に満足してもらうだけでない「それ以上」が求められる。それが顧客の感動体験ということになる。

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