顧客満足を探究する~データと戦略の森から~ #01

帝国ホテルとスタバは似た傾向?最新研究から見えてくる顧客「感情」の重要性【新連載:青山学院大学 小野譲司】

 

顧客の感動体験ジャーニー


 顧客の感動体験は、顧客満足に関する学術研究においては、「カスタマーデライト(Customer Delight)」というテーマで研究されてきた。スポーツ観戦で勝利に喜び、歓声を上げる。レストランにおいてサプライズの誕生日祝いにびっくりして嬉しい思い出になる。リゾート地に旅行して日常では味わえない景色を見て感動し、写真を撮りまくる。デライトとは歓喜や感動といった、心拍数が上がるような生理的反応を伴った強い快感情である。こうした強い感情体験は,非日常の体験(extraordinary experience)のエピソードとして記憶に残りやすく、具体的なシチュエーションやブランド名と結びついて思い出となることによって、店舗やブランドへのロイヤルティの源泉になる可能性がある。

 顧客の感動体験は強い快感情だけではなく、生理的な反応は起きない“静かな快感情”も研究の矛先となる。すなわち、安心する、なごむ、リラックスする、穏やかな気持ちになる…といった、生理的な感情は起こらないが比較的持続性のあるポジティブな感情である。
  

 上図のレーダーチャートは、特定ブランドのユーザーに各種の感情をどの程度経験したか(「全くない」~「毎回」の10段階)を質問した調査結果を示している。これは日本のサービス産業を業種横断で継続的に調査しているJCSI調査(日本版顧客満足度指数:サービス産業生産性協議会)の2023年度データである(※)。

 このグラフでは9種類の快感情を掲載しているが、右側には「わくわくした」から「楽しい」までの強い感情を、左側には「穏やかな」から「安心した」までの左側は静かな感情である。レーダーチャートの点線が全業種平均(n=102,061)であり、それ以外のチャートは個別ブランドの平均を掲載している(各ブランドのサンプルサイズはいずれもn=300以上)。ユニクロを店舗で利用するユーザーが体験した快感情は全業種平均に近いことを示している。

 オンライン銀行AとコンビニBは、すべての快感情で全業種平均よりも低位にある。銀行・証券・クレジットカード、生命保険、損害保険、通信といった生活インフラにあたるサービスは、業種全体としてユーザーが快感情を経験する頻度が少ない。それに対して、テーマパークや観劇といった娯楽・エンタテインメントは、快感情の体験自体を生業としている。東京ディズニーリゾートのスコアはほとんどの快感情で高い。図には示していないが、ユニバーサルスタジオジャパンや劇団四季も同様の傾向にある。

 ホテルはシティホテル、リゾートホテル、ビジネスホテルのそれぞれで傾向が異なるが、一般に快感情が高い業種である。そのなかで帝国ホテルは同調査において顧客満足度やロイヤルティも特に高く、快感情もテーマパーク並みに高いスコアであるが、テーマパークは右側の強い感情が高いのに対して、帝国ホテルは左側の静かな感情が高めになっている。ホテル滞在で寛ぐことがリラックスや穏やかな体験として記憶されていることを物語っているようだ。

 これと似たような傾向を持つのがスターバックスである。主な利用形態が店内利用なのかテイクアウトなのかによって違いはあるが、カフェ・喫茶は強い感情というよりも、使い慣れた場所でのいつもの寛ぎに価値があるとすれば、このデータはそれを反映していると解釈できる。

 快感情と結びついた顧客経験の記憶は、ブランドを想起しやすいだけでなく、そこで経験したものを、より好意的なものへと評価を歪める効果があるとも考えられている。サプライズでハッピーバースデイを歌ってもらったレストランでの体験は、そこで提供された料理や飲み物、接客や雰囲気すらも好意的なものに塗り替えてしまう可能性を秘めている。

 ※筆者注※
 調査概要はサービス産業生産性協議会(日本生産性本部)を参照されたい。
 JCSIについては公式ガイドブックを参照されたい。小野譲司・小川孔輔編著(2021)『サービス・エクセレンス:CSI診断による顧客経験CXの可視化』生産性出版。

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