顧客満足を探究する~データと戦略の森から~ #01
帝国ホテルとスタバは似た傾向?最新研究から見えてくる顧客「感情」の重要性【新連載:青山学院大学 小野譲司】
感情が評価を歪める
顧客の感情経験に関する研究では、感動経験をもつ顧客ほどリピーターになりやすいという効果が研究テーマとなる。すなわち、感情の種類によってその後の顧客行動に与える効果が異なることである。たとえば「驚いた」や「感動した」といった強い感情はクチコミを誘発しやすいが、リピートには結びつきにくい。逆に「楽しい」「リラックスした」といった感情体験は、クチコミよりもリピートに結びつきやすいといったものである。もちろん、こうした感情の効果は業種やブランド、あるいは顧客特性によって異なるため容易に一般化はできないが、「感動」という一言で語り尽くせない奥深さを示唆している。
さらに、顧客が経験するネガティブな感情についても研究が行われている。怒り・憤慨・イライラ・つまらなさ・退屈・不安といった不快感情は、快感情よりも強くサービス評価を歪め、その後の顧客行動に影響を与える可能性がある。たとえば不快な感情を経験した顧客は、サービスの内容を分析的・診断的に見るのではないかと考えられている。つまり、レストランの接客で不快な思いをした人は、従業員の言葉遣い、振る舞い、服装などにもチェックを入れたり、接客以外のことまで事細かにチェックしたりする、といったことである。
快感情を経験する頻度が低い業種において、システム障害による通信や金融のサービス利用の不具合、天候不順や突発的事態の発生による交通機関の停止は、顧客の不快感情を誘発する。さらに、企業のリカバリー対応が適切でないと顧客が判断すると、不快な感情が増幅しかねない。
快・不快の感情体験はCS推進(顧客満足)・CX戦略(顧客経験)・顧客ロイヤリティ強化といったマーケティング課題における重要なテーマの一つであるが、それ以外にも探求すべき研究課題はさまざまあり、相互に関連している。今回はその糸口を示したにすぎない。この連載では「顧客満足の探究」をテーマに、マーケティング研究の成果やトレンドを紹介しながら課題解決へのヒントを示唆できればと考えている。
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