CATCH THE RISING STAR #06

「音楽とマーケティングは似ている」奏者でもあるヤマハの若手マーケターが目指す音楽業界の未来【立畠響介氏】

 

アマチュアを元気にしたい


―― 音楽経験を踏まえた戦略やクリエイティブの立案、さらには業務でSNSや3DCGなどにも関わっているとなると、オールラウンダーという印象を受けます。

「苦手なことが無さそう」と言っていただくこともあるのですが…。自分としては「何か突出したものがほしい」という思いがあります。たとえば生成AIに関しては、私が手を挙げて動かし始めたということもあり、きちんとマーケティングに貢献できる形にしたいと考えています。

 具体的には、ヤマハには各職場単位で年度ごとの「業務改善運動」という取り組みがあるのですが、そこで昨年、私が上司に直訴して、この運動の一環として生成AIを扱いたいと提案しました。内心、この活動をきっかけに生成AIに触れてみたいという動機もありました。

 もちろん会社全体のAI活用については専門部署が進めているのですが、それとは別にCXマーケティンググループとしてChatGPTの有料版を契約したりして、実際に手を動かすことでどのように業務に活用できるのかを研究しました。外部有識者を招いてAI講座を開いたり、事例コンテストを開催したりもしました。

 成果としては、メンバーの基本的な知識やAI活用への意欲が高まったことが、活動終盤に行ったアンケート結果に表れていました。また実際の業務でも、これまで4時間かかっていたレポート作成が15分程度に短縮されたり、AI作成のプロトタイプやペルソナのイメージを迅速に共有することでコミュニケーションの円滑化が見られたりするなど、業務改善に役立つ事例が生まれました。

 今後は生成AIのアウトプットを実際のクリエイティブにどう生かしていくかについて、模索して結果を出していきたいと考えています。

―― 先端分野にチャレンジする意欲や組織を動かす行動力まで備えているのですね。ますます「無敵」という印象ですが、課題に感じることはありますか?

 個人的にまず不足していると思うのが「アドリブ力」です。準備していなくても、社外の方と仕事の話を整理して話す上司の様子などを見ていると、自分はまだまだと感じます。サックス奏者ですが、ジャズではなくクラシックが専門なので、楽譜をじっくり読み込み、準備してから本番に臨む方が得意で…。これはもっと経験を積んでいきたいです。

 また、現在の業務は基本的に「伴走」という立ち位置で、こちらが提示したファクトを受けて最終的な意思決定をするのはあくまで事業部です。構造上、自分の提案する施策が必ずしも実行されないのは仕方のない部分もあるのですが、やはり熱意の伝え方やコミュニケーションの仕方によって結果が変わってくることもあると思うので、実行力みたいなものを備えたいです。

―― 実際に市場に価値を届けたいという思いがあるのですね。マーケターとして、また演奏者として、実現したいことはありますか。

 マーケターとしては、現状がデジタルに近い領域なので、イベント企画・運営などのスキルも身に付けたいと思っています。また、幅広い人を巻き込んでいくというマーケターの業務を考えると、販売や営業の経験も必要ではないかと感じています。そうして身につけた知識やスキルを自分の演奏活動にも生かしていきたいです。

 より大きな目標としては、音楽のアマチュアを元気にしたいと思っています。理由は2つあって、まずは単純に、楽器市場はプロだけでなく大勢のアマチュアに支えられているからです。楽器を使う人が増えれば、自分の仕事も報われます。

 もうひとつは音楽業界の厳しい現実です。私のように、ただ何となく「上達し続けたい」という理由で音大に入っても、プロとして成功できる人は限られています。音大は本気でその道を目指す人が切磋琢磨する場であってほしいですが、一方で、別の道を歩みながらでもアマチュアとして楽しく、活発に音楽ができる世の中になってほしい。そんな仕組みづくりに、自分の仕事と演奏活動を通じて貢献したいです。

―― 仕事と演奏活動の両立は、忙しくて時間が足りないのではありませんか。

 そうですね。誕生日のプレゼントに何がいいかと妻に聞かれて「時間が欲しい」と答えたら、時短調理家電を買ってくれました(笑)。時間の使い方や演奏活動の会計など、まだ未熟な部分があるので、仕事とプライベートを大事にしながら、音楽活動の方も副業としてしっかり成立するようにしていきたいです。
 

【上司の視点】稀に見る一番星

 
加藤 剛士 氏
ヤマハ ブランド戦略本部コーポレートマーケティング部/リーダー
 
  • 爆発的ともいえる行動力に、データドリブン思考が掛け合わさっている
  • 自身がサックス奏者であるため、幅広いユーザーに合わせたお作法を表現に反映できる
  • 生成系AIのような先端領域を自身で学ぶだけでなく、組織への啓蒙活動を主体的に行っている
  • バリバリ働きプライベートも充実させる、理想的なワークライフバランス

 近年稀にみる一番星です。今後は製造業としての価値提案を商品事業部の一員として経験したり、海外を含めた特定市場で流通を巻き込んだプロダクト導入を通じたりして、さらなる自己成長と自己実現を図ってほしいと思います。昨年参加したRising Agendaでも刺激を得た様子ですし、社内に限らず外部からの刺激で知的好奇心を満たしていき、積み上げた経験をベースに、行動力が伴うマーケターとして貢献していただける将来を期待しています。
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