師弟対談 #01

音部大輔氏とスープストックトーキョー工藤萌氏の師弟対談、ブランドの存在意義を伝えた資生堂時代の秘話

 2024年4月1日、資生堂やユーグレナでマーケティングや経営に携わってきた経歴を持つ工藤萌氏が、スープストックトーキョーの取締役社長に就任した。工藤氏は新卒で入社した資生堂で、当時CMOを担っていた音部大輔氏(クー・マーケティング・カンパニー 代表取締役)のもと、当時史上最年少でブランドマネージャーを務めた。その経験を通じて、経営やマーケティングの基礎となる考え方を学んだ。

 今回、工藤氏の社長就任に合わせて、音部氏との「師弟対談」が実現。工藤氏が音部氏から学んだことや当時の印象的なエピソード、音部氏から見たキャリアをしっかりと歩んでいるマーケターの特徴などを語り合った(全3回)。
 

口内炎ができるほど緊張したプレゼン


――まずは、工藤さんと音部さんの出会いから教えてください。

工藤 資生堂のトップが(現)代表執行役 会長 CEOの魚谷雅彦さんに変わったタイミングで、CMOとしていらっしゃったのが音部さんでした。当時、私はマキアージュのアシスタントブランドマネージャーだったので、上司と部下の関係でした。
 
スープストックトーキョー 取締役社長
工藤 萌 氏

 大学卒業後、資生堂入社。営業を経験した後、一貫してマーケティングに従事。低中価格メーキャップブランド「マキアージュ」「マジョリカマジョルカ」を担当し、当時史上最年少のブランドマネージャー、サンケアブランド「アネッサ」のグローバルブランドマネージャーなどを務める。第一子出産を機に2019年バイオテクノロジー企業の株式会社ユーグレナへ転籍し、マーケティング部門の立ち上げやマスターブランド戦略等を実行。事業本部長、執行役員を歴任。2023年3月よりスープストックトーキョー顧問、2023年8月同社へ入社し、取締役に就任。2024年4月1日付で同社取締役社長に就任。

音部さんはCMOとしてたくさんのブランドをマネジメントされていて、魚谷さんが掲げた改革の中で「資生堂のブランドを描き直す」という大きな役割がありました。その中で注力していくブランドのひとつに私が担当するマキアージュがあったので、直接教えていただく機会が多かったように思います。

音部 ブランドごとの定例会議がありましたからね。当時、私は資生堂にブランドマネジメント制を導入するために入社しました。

当時の資生堂は本社とは別に販売会社をもっていて、そこが営業を主軸として担っていました。ただ、そうした体制の場合、営業単位の状況はすぐに把握できるものの、ブランド単位の状況はすぐには把握できませんでした。ビジネスのオペレーションとして問題はないものの、マーケティングの立場からすると、ブランドごとのROI(Return On Investment:投資利益率)が測りにくく、ブランディングの改善がやりにくいという課題がありました。

ブランドとは「意味」であるがゆえに、それを持続的に維持することによって、昨年や一昨年のマーケティング予算が次の年にも効果が残るという意義深い作用があります。ところが、昨年どのような使い方をして、何が起きたのかよくわからない状態では、持続的なブランドをもつことの意義が発揮しにくいんです。そこで、資生堂でブランドマネジメント制をきちんとやろうという方針が定められました。

私の入社前にブランドマネージャーという役職ができ、仕組みもできつつあったものの、ブランドマネジメント制という組織構造自体が未知のもので、組織全体が試行錯誤しつつ手探り状態だったかもしれません。私が入社したのは、ちょうど変化がしつつあるタイミングでした。

――工藤さんはどのような経緯で資生堂に入社されたのでしょうか。

工藤 高校生のときに、アルバイト代で初めて買った口紅が資生堂の商品でした。そのとき、すごく気持ちが高揚して、化粧品の力をものすごく感じたんです。当時から漠然と、いつかこういう商品をつくりたいなという思いがありました。

就職活動をしているときに高校生の時の気持ちを思い出し、化粧品の力で女性がもっと生き生きできたら社会は明るくなると思い、2004年に新卒で資生堂に入社しました。

音部 もう20年前の話ですね。

工藤 そうですね、ちょうど20年経過していますね。

――最初、お2人はお互いに対してどのような印象をおもちでしたでしょうか。

音部 私は当時、退勤時に意識的にブランドチームのあるフロアに寄って、メンバーとコミュニケーションをとるようにしていました。たしか、私が入社した直後に予定されていた重要な社内ミーティングの前日に、工藤さんがまだオフィスに残って準備をしていたことがありました。
 
クー・マーケティング・カンパニー / 代表
音部 大輔 氏

  P&Gジャパン、マーケティング本部に17年間在籍し、ブランドマネジャー、マーケティングディレクターとしてアリエール、ファブリーズ、アテント、パンパースなどのブランドを担当し、市場創造やシェアの回復を実現。のちにUS本社チームでイノベーションの知識開発をマーケティングとして主導。帰国後、ダノンジャパン、ユニリーバ・ジャパン、日産自動車、資生堂など多様な文化背景、製品分野で、複数ブランド群を成長させるブランドマネジメント、組織構築、人材育成を指揮。2018年より現職。博士(経営学 神戸大学)

それで「何をしていらっしゃいますか?」と声を掛けたら、工藤さんから「明日のプレゼンのことを考えると気が滅入って、口内炎ができてしまいました」という告白を受けたんです。私は口内炎ができるほど緊張させてしまっている、これはいかんと思ったことをよく覚えていますね(笑)。

工藤 そんなことを音部さんに話していたんですね! すみませんでした(笑)。たしか次の日は、魚谷社長と音部さんへのプレゼンでどんな質問が飛んでくるのかも想定できておらず、震えていたんです。でも実際、音部さんはいろいろな相談に乗ってくださるし、こちらに考えさせる質問をしてくださるので、楽しかったです。

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