師弟対談 #01

音部大輔氏とスープストックトーキョー工藤萌氏の師弟対談、ブランドの存在意義を伝えた資生堂時代の秘話

 

音部氏から受け取った、いまに生きている学び


――工藤さんは、音部さんからどのような影響を受けましたか。

工藤 やはり思い出すのは、さきほどの最初のプレゼンですね。マキアージュの新しい口紅についてプレゼンしたところ、音部さんから「このプランが失敗するとしたら、どんなときに何がありますか?」というご質問をいただいて、ハッとしたんです。プレゼンの内容は「成功する」という前提でポジティブなプランとしてまとめましたが、そうとは限らなかった場合を考えきれていないなと気づきました。

当時、マキアージュのシェアは1位でしたが、市場では競合がどんどん追ってきて、熾烈なシェア争いが繰り広げられていました。リスクはいろいろ想定できたはずでした。また、そうしたリスクが現実に起こらないように、そもそも予防することも必要だったのに、そこまで考えが及んでいなかったことに気づかされたのです。そのとき、ブランドマネジメントとはこういうことなのかと思ったんです。

その経験があったからこそ、いまではリスクも含めて考えるという癖がついています。ほかにも、音部さんから「その行動があるときと、ないときでは何が違うか?」といった質問もよくいただき、目的についてシャープに考えられるように導いてくださりました。いまでも自分の中で生きている「問い」をたくさんくださったなと感じています。
  

音部 すばらしい。私が伝えたかったことを、工藤さんがすべて言ってくれました(笑)。CMOによってやり方は異なるかと思いますが、複数ブランドを擁する組織の場合、各ブランドに具体的な活動を指示するというのは、あまり効率がよくありません。そこで、私とひとつのチームとのやり取りを別のチームにも聞いてもらうことで、全体のレベルも上がってほしいと思っていました。

つまり、そのミーティングに10チームが出席しているのであれば、自分のチーム以外のやり取りを聞くことで10の経験値を得られるようにしたいと思っているんです。そのため、全員で共有できる、ものの見方や考え方のフレームワークを話すように意識しています。工藤さんは、それをきちんと把握されていて、すばらしいですね。

――工藤さんはそうして学んだことを、現在の立場でどのように生かされていますか。

工藤 思考の癖になっているので常にリスクを考慮した上で目的を考えていますし、それによってマーケティングを狭義に考えずに、広義に捉えられるようになったと思います。

たとえば、4Pを完璧に押さえることができたとしても、バリューチェーンのどこかで躓く可能性はあり得るので、そこに想像力を働かせることができるようになりました。結果的に、それは経営視点にもなり得るので、経営としての考えや姿勢に生きているなと思います。

音部 ブランドマネジメントというのは、経営そのものですからね。ブランド単位で利益管理できるのがブランドマネジメントなので、ひとつのブランドを担当することは経営の練習にちょうどいいと思います。

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