師弟対談 #03

「世の中の体温をあげる」という理念を神棚に置かない【師弟対談:音部大輔氏とスープストックトーキョー工藤萌氏】

前回の記事:
堅実にキャリアを歩んでいるマーケターの共通点【師弟対談:音部大輔氏とスープストックトーキョー工藤萌氏】
 2024年4月1日、資生堂やユーグレナでマーケティングや経営に携わってきた経歴を持つ工藤萌氏が、スープストックトーキョーの取締役社長に就任した。工藤氏は新卒で入社した資生堂で、当時CMOを担っていた音部大輔氏(クー・マーケティング・カンパニー 代表取締役)のもと、当時史上最年少でブランドマネージャーを務めた。その経験を通じて、経営やマーケティングの基礎となる考え方を学んだ。

 今回、工藤氏の社長就任に合わせて、音部氏との「師弟対談」が実現。工藤氏が音部氏から学んだことや当時の印象的なエピソード、音部氏から見たキャリアをしっかりと歩んでいるマーケターの特徴などを語り合った(全3回)。中編では成長するための行動や考え方やキャリアをしっかり歩んでいる人の共通点などについて語り、本稿の後編では現在のマーケティングやビジネスに求められること、いまの若手マーケターに向けたメッセージについて詳しく語り合った。
 

パーパスを中心に置いて、そこに数字を結び付けていく


――お二人に聞きたいのですが、現在のマーケティングやビジネスに特に求められることは何だと思われますか。また、そのためにマーケターはどのようなスキルが必要でしょうか。

工藤 私はマーケターとして、商品が売れれば売れるほど社会がよくなるということを追求したいですし、それを世の中のマーケターと一緒に取り組みたいです。マーケティングは人の認識や行動を変える力が強いので、皆で取り組めばすごい力になると思います。そのやり方や解決しようとする問題は違っていいのですが、マーケティングはよりよい未来に向けて力を注ぐことができる武器なので、それを使っていくことが大事だと思っていますね。
 
スープストックトーキョー 取締役社長
工藤 萌 氏

 大学卒業後、資生堂入社。営業を経験した後、一貫してマーケティングに従事。低中価格メーキャップブランド「マキアージュ」「マジョリカマジョルカ」を担当し、当時史上最年少のブランドマネージャー、サンケアブランド「アネッサ」のグローバルブランドマネージャーなどを務める。第一子出産を機に2019年バイオテクノロジー企業の株式会社ユーグレナへ転籍し、マーケティング部門の立ち上げやマスターブランド戦略等を実行。事業本部長、執行役員を歴任。2023年3月よりスープストックトーキョー顧問、2023年8月同社へ入社し、取締役に就任。2024年4月1日付で同社取締役社長に就任。

そのために必要なのは、パーパスや理念を神棚に置いておかないことです。スープストックトーキョーを含め、強いブランドは、そのパーパスや理念を行動にきちんと落とし込んでいます。私たちは「世の中の体温をあげる」という理念を中心に店舗での接客や日々の仕事での行動に移しています。

また、働くひともそれを一人ひとりが自分ごととして捉えてグッと踏ん張れるから、強いのではないのでしょうか。どのような企業やブランドも、生まれたときはそうしたミッションや使命があったはずです。KPIや株主によるプレッシャー、外部環境など、目先のことだけに振り回されずに、パーパスや理念を企業活動の中心に据え置いて、そこに数字を結び付けていくという力がすごく重要だと思います。

音部 その通りですね。自分の仕事や活動があった場合となかった場合の差が、自分の活動による貢献ということになると思います。最初のうちはそこに大きな差はないとしても、自分の存在がもたらす差の最大化を目指していれば、いずれ経験を積んだときに自分自身がなすべきことを超えていける可能性が高くなるのではないでしょうか。
 
クー・マーケティング・カンパニー / 代表
音部 大輔 氏

  P&Gジャパン、マーケティング本部に17年間在籍し、ブランドマネジャー、マーケティングディレクターとしてアリエール、ファブリーズ、アテント、パンパースなどのブランドを担当し、市場創造やシェアの回復を実現。のちにUS本社チームでイノベーションの知識開発をマーケティングとして主導。帰国後、ダノンジャパン、ユニリーバ・ジャパン、日産自動車、資生堂など多様な文化背景、製品分野で、複数ブランド群を成長させるブランドマネジメント、組織構築、人材育成を指揮。2018年より現職。博士(経営学 神戸大学)

若いうちは、そこにどのような差を生んでいる人たちをかっこいいと思うのかという憧れを見つけて、それを目指せばいいんです。仮に大金持ちになっている人がかっこいいなと思えば、大金持ちを目指せばいいし、人を育てるのが素晴らしいと思えば、そちらを目指せばいいと思います。自分が何をいいと思えるのか、若いうちは認識できるだけで十分です。そのうえで、いろいろな経験を積んだら自分がもたらすその最大化を意識する。それは直感というより、振り返って意識することで、役に立つのではないかなと思います。

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