師弟対談 #03

「世の中の体温をあげる」という理念を神棚に置かない【師弟対談:音部大輔氏とスープストックトーキョー工藤萌氏】

 

自分だけの道を見つけ努力する


――最後に、まだまだ駆け出しの若手のマーケターに向けて、アドバイスをいただけますか。

音部 私の大好きな小説家の開高健さんの言葉に、「Nurse log(倒木更新:寿命や天災、伐採などによって倒れた古木を苗床にして、新たな世代の木が育つこと)」というものがあります。これは、人知れず森の中で倒れた木から、新たな木が育つことを意味する言葉です。倒れた木は、一見何の役にも立たないように思えますが、そこにやがて苔が生え、きのこが生え、陽が差し込むようになり、森を養います。つまり、ここで言いたいことは、無駄なものはないということです。
  

5年後や10年後に何が起こるかはわかりませんが、努力は無駄にならないし、日々起こることにがっかりすることはたくさんあっても、結果的にはすべてよいことにつながるのではないかと信じています。

努力したからといって必ずしも意図した結果が得られるわけではありませんが、その努力が他に予期していなかったよいことを生む可能性もあります。一生懸命サッカーの練習をして、結果的にサッカーはあまり上手にならなかったとしても、健康な身体をもち、走るのが速くなったというのであれば、予期した結果ではなくても、努力は無駄になっていないわけです。

世の中には絶対的な悲劇もあるのかもしれませんが、仕事上に限ったことであれば、塞翁が馬、あるいは禍福は糾える縄の如しというように、ひょっとしたらその次にはもっとよいことが起きる、その前提になっているかもしれないわけです。仕事をしていたら気が乗らないこともあるかもしれませんが、できるときにはできる努力をしていくということが、きっと役に立つだろうと思います。

そのときに、工藤さんのようにキャリアミッションが明確であれば、そこに向かって楽しく進んでいけるでしょう。それがないのであれば、自分が楽しいと思うこと、好きだと思うことに自分自身の天賦の才が隠れていることは少なくないので、それを見つけて努力をしておけば、その努力が裏切ることはありません。
  

――ありがとうございます。工藤さんからも、アドバイスをもらえますか。

工藤 私のように、音部さんという素敵な師匠に出会うことですね。でも、それは待っているだけではダメで、自ら渇望していく、アンテナを張るということもすごく大切です。私が音部さんと出会ったのはたまたまですが、自分が学びたいことや必要だと思うことに向かって食らいついていったからこそ、現在の私があるのだと思います。

ただ、その学びをそのままスライドして使うだけでは面白くないので、私のキャリアミッションのように、自分ならではの視点や発想、違和感などをできるだけ言葉にして、自分だけの道やキャリアを見つけていけると楽しくなると思います。先ほど音部さんが言っていたように、私が120メートルを走るのが辛くないのは、それがあるからこそですね。
  

音部 いま取り組んでいることに天賦の才が隠れているかもしれないかどうか不安になることもあると思います。それは工藤さんが担当していたマジョリカ マジョルカでもそうで、これで説得できるかどうかなんてわからず、口内炎ができるぐらい心配でしたよね。ただ、うまくいくのだとしたら、この方法しかないという見極めができると、うまくいかなかったらどうするかも考えるようになるので、リスクを考慮した上でうまくいく方法に割り切ることも大事ですね。

皆さんは、必ず何かの天賦の才をもっていますが、それがうまく出てくるかどうかはほんの少しの差や、ちょっとしたタイミングなのかもしれません。天賦の才を使えたときは、きっとそれに早めに気付いたときだと思います。ヒントは好きなものや興味のあるものの中にきっとあるんです。工藤さんはそれに気づくのが早かったんだと思います。

――お2人とも、本日は貴重なお話をありがとうございました。
  
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