CATCH THE RISING STAR #07

資生堂「エリクシール」の若手マーケター 生活者視点とデータ活用に奮闘【今井静香氏】

 

データ活用で生活者に寄り添う


―― 1年目から担当したマキアージュでは、どのようにプロモーションに取り組んだのですか。すでに一定の世界観や認知があるブランドに対して、自分のアイデアをどう反映するのでしょうか。

 私も最初は、マキアージュというブランドの何を継続して、新しいものをどれくらい取り入れていくのがいいのか、すごく考え、模索しました。と言っても難しいことをしたわけではなく、たとえばあまり得意ではなかったSNSをよく見るようにして、マキアージュという商品をお客さまはどういう目で見て、何がいいと思って使っていただいているのかをチェックしました。また、一人の生活者として「どういう訴求をされたらほしくなるか」という目線で、気になる広告を意識的にウォッチするようにしました。

 1年目はそのように生活者としての視点や、同世代の友人などとの会話で得た情報を収集して先輩と共有したりしました。2年目には半期のプロモーション計画をメイン担当として担うことになり、新商品の一番のターゲットを誰に設定して、どうやって届けるかという戦略を策定しました。

―― プロモーション計画策定ではどんな工夫をしましたか。

 特に取り組んだのが、生活者調査などの振り返りです。それまでは忙しかったりしてなかなか出来なかったのですが、あらためてじっくり調査結果を見てみると、興味深い発見がありました。たとえば、美容部員と20代のお客さまとのコミュニケーションに関連した調査があり、これらのお店を訪れる若年層は一般に美容部員とはあまり話したがらないイメージがありましたが、「聞きたいことがあれば聞いてみたい」という回答が想像以上に多かったのです。そこで、若年層向けにはもちろんSNS施策も展開しつつ、ドラッグストアの美容部員の方々にも積極的に若年層のお客さまに関わっていただければ、という考えをプロモーション戦略に反映させました。マキアージュは量販店やドラッグストアをメインの販路とする中価格帯商品なので、先輩に「生活者の気持ちに寄り添ったプロモーションができたね」と言葉をかけてもらえ、やって良かったと思っています。

―― 先入観にとらわれず、データを活用されたのですね。今年1月からはエリクシールに移られたということですが、どのような業務を担当されていますか。

 デーケアレボリューションというUV乳液のプロモーション戦略と実行、そしてブランド全体の売上計画や実績管理を担当しています。前者についてはマキアージュと同じく、半期のプロモーションプランや、どういったインフルエンサーの方にご紹介いただくかなどを検討しています。
 

今年発売された「デーケアレボリューション トーンアップ SP + aa」

 売上計画や実績管理については今年から初めて携わりました。1カ月ごとや1Qごとの売り上げ計画と実績を比較し、チームで振り返ります。個人的にはエクセルや数字が得意ではなかったので、最初はデータを把握するのに時間を取られてしまいました。でも、やはりデータの重要性は非常に実感してきたところなので、今年はSNSの口コミなどによる定性情報と、定量情報の活用を両立できるよう頑張りたいです。そうして生活者の解像度を上げていきたいですね。

 エリクシールは今年で発売40周年になるのですが、幸いにも最近、新しいお客さまに知っていただけたり、期待度や実績が高まったりしているのが数字にも出ています。数字も自分だけで背負うのではなく、喜びも含めてチームで共有するものだと思うので、数字を追うプレッシャーを感じすぎずに進めていきたいです。

 プロモーションにおけるマキアージュとの大きな違いとしては、マキアージュがおもにメイクアップのブランドで、特にポイントメイクではお客さまの気持ちを瞬間的に高めて差し上げられるようなプロモーションが中心だったのに対し、エリクシールはスキンケアを中心としたブランドなので、肌に良いものを選びたいというお客様の気持ちに寄り添うことを重視していることです。口紅のように気分によって変えるというより、一度使って良ければそのまま使っていただく方も多い商材なので、何%の方がリピートされて、何%の方が他と併用されているかといった、お客様とブランドの関わり方をよりデータドリブンで考えるようになりました。

―― データやSNSは得意ではなかったとのことですが、ご自身の特技で仕事に生きている、あるいは課題と思うことはありますか?

 昔からピアノを習っていて、作曲家が曲をつくった時の年齢や家族構成、社会情勢や環境を調べて、理解した上でどう弾くかを考える、ということを学びました。大学でも音楽史を勉強し、当時の作曲家が置かれた環境やマインドを考察しました。入社当時はマーケティングの知識は全く無かったのですが、自分とは違う環境や人について考えた経験は、マーケティングにもすごく生かされていると感じます。

 課題としては、まず話が長いです(笑)。発言する前にちゃんと整理して話すことを意識しています。あとは、担当しているエリクシールは自分よりも少し高い年代の方がメインのターゲット層になるので、母親などターゲット層に近い人に話を聞いたり、ドラッグストアに行ったり、ターゲット層の視点でSNSを見てみたりして、ターゲットの気持ちに常にアンテナを張って寄り添うことを心がけています。

―― 最後に目標をお聞かせください。

 今も結構やりたいことができていると感じるのですが、やはり原点は「人の気持ちを動かしたい」ということなので、多くの方の気持ちを動かすプロモーションがしたいと思っています。

 生活者の皆さまに寄り添いながら、心の奥底にある気持ちに刺さるものを作り、「SNSのあの広告良かったよね」とか「あのCM良かったよね」と噂になったり、「この化粧品を使ったら前向きに過ごせるようになった」という口コミを見たりできたら嬉しいと思います。
  
 

【上司の視点】明確かつロジカルな思考

 
資生堂ジャパン エイジングケアマーケティング部 エリクシールグループブランドマネージャー
山口 直輝 氏

 マーケティングの実務の中で、深く考えることができる貴重な人材です。施策や数値の構築をする際に、こちらからアドバイスをする前に、ご自身でいろいろなパターンをしっかりと考えて持ってきてくれます。その内容の一つひとつが、目的が明確&ロジカルに考えられており、こちらが聞いていても「なるほど」と納得することが多いです。

 今後はその強みを活かしつつ、もっと色々なことにチャレンジして経験値を増やし、さまざまな課題を解決できるマーケターになってくれることを期待しています。
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