グローバルマーケター進化論 #01
「重要なのはWhyの核心」キンドリルジャパンCMO加藤希尊氏が語るグローバルで進化し続けるマーケターの資質【新連載スタート】
Whyを構造化する
――キンドリルの日本法人では、グローバル本社とのやりとりをしながらマーケティングを遂行しているとのお話でしたが、実際にどのように行っているのでしょうか。
私が統括している範囲には、ブランディングチームやコンテンツチーム、デジタルマーケティングチーム、キャンペーンチーム、アカウント ベースド マーケティングチーム、マーケットインサイトチーム、がありますが、グローバルにも同様の組織があるので、そこと相対したり、その統括であるグローバルCMOとのやりとりを行ったりして連携を図っています。
その中でグローバルマーケターとして重要なのは、マーケティングにおけるWhy、How、Whatの「Whyの核心」を、本社ときちんとコミュニケーションしていくこと。Whyとは、つまり日本市場の現状を構造的にきちんと理解して、その中から我々がまず取り組むべきプライオリティを見つけるということです。このプライオリティは本社のそれと異なるケースが少なくありません。最も身近で簡単な例でいえば、海外のクリエイティブは英語でつくられているので、それを日本市場向けにトランスレーション (翻訳)、ローカライゼーション(文化や文脈に合わせた翻訳)、トランスクリエーション (創造的な翻訳) することが挙げられます。
一般的に英語を母国語とする人々は、世界中で英語が話されていると考えがちです。しかし、国際的な調査結果*から日本の英語力が世界113カ国のうち84位であり、残念ながら日本の英語力は低い現状があります。日本では多くの人が英語教育を受けていますが、英語を話す機会が少なく、読み書きにも苦労することがあるため、翻訳のみならず、ローカライゼーションやトランスクリエーションの必要性を理解してもらうようにします。他にも、日本のお客さまに親近感を持ってもらうためにクリエイティブの背景に桜を入れたいのであれば、そうした日本の文化を知ってもらう必要もあります。(* Source: EFエデュケーション・ファーストのEF EPI英語能力指数 2023)
製品やサービスを日本市場に出す前に取り組むべきプライオリティの一つは、複数の階層レベルにわたるローカライゼーションが必要であると認識してもらうことです。この認識があって初めて、予算や人材、物資、情報を確保できるようになります。
当社キンドリルの例でいえば、日本市場で我々が何者であるかを伝えることもプライオリティの一つです。ブランドの認知度調査などで日本におけるキンドリルの現状を分析すると、顧客には認知されている一方で、まだ知られていない層もあることがわかります。しかし米国の本社は、認知の獲得ではなく、事業の中身をさらに深く知ってもらうことがプライオリティだと認識していました。そのため、米国と日本市場におけるプライオリティの違いを伝える必要がありました。
そこで私は、認知度調査の内容や顧客の生の声、キンドリルを知らない人のフィードバックなどのデータを集め、整理して構造化した上で、本社にそうした日本の現状を伝えました。そして、日本で事業の中身を知ってもらう段階に立つためには、まずはキンドリルが60カ国以上でビジネスを展開していて約8万人の社員が在籍し、ニューヨーク証券取引所に上場し、そのうち日本の売上は2位であるという企業ステータスを正しく伝えることがプライオリティであると説きました。この目的のために、グローバルとのコミュニケーションで共通の日本用語をつくり、日本でのブランディングのテーマ設定を独自に行いました。
そうすることで初めて、日本市場においてスタート地点に立ち、次にブランディングやキャンペーンでやるべきHowが見え、その先にWhatも紐づいていき、グローバルが目指しているResultに我々としても近づくことができます。