グローバルマーケター進化論 #01

「重要なのはWhyの核心」キンドリルジャパンCMO加藤希尊氏が語るグローバルで進化し続けるマーケターの資質【新連載スタート】

 

プロトコルを合わせる


―― グローバルとのコミュニケーションにおいて最も重要なことはなんですか。

 プロトコルを合わせることです。プロトコルとは一般に通信規格を指しますが、ここではコミュニケーションにおける共通認識を指します。英語など言語を揃えるのはもちろんですが、米国でも日本でも使われている用語の意味を揃えるなど、共通理解をつくる必要があります。たとえば、我々が重視する「アカウント ベースド マーケティング」という用語について、それぞれの理解が違えば、コミュニケーションは全くすれ違います。

 先ほどのプライオリティの話にも通じますが、米国と日本でよく違いとして挙がるのが、広告媒体への認識です。日本のビジネスの大半が集中する東京では、通勤や移動に電車やバス、タクシーなどが当たり前に使われています。そのため、OOH(交通広告などの屋外広告)が効果的に活用できます。一方、米国では車通勤や異なる都市からのリモートワークが多く、取引先に訪問する機会もあまりありません。こうした環境の違いを本社に理解してもらうことが重要です。たとえば、来日したエグゼクティブにあえて電車を利用してもらい、「日本の電車はこんなにきれいなんだ。車両にビジョンが備え付けてあるんだ」ということを分かってもらえるようにします。プライオリティの違いをきちんと伝える、共通のプロトコルを醸成するということが大事なのです。同時に、そのプロトコルができていないとビジネスへの貢献もできないことも伝えます。交渉の際にはマーケティングのロジックだけでなく、ビジネスとつなげて話すことも大切です。

 他にも例はいろいろとありますが、まとめると、グローバルチームと相対するジャパンCMOとして大事なことは、日本の市場状況や顧客の状況、競合の状況など、日本特有の環境を整理して「Why」を構造化し、そこに日本独自で取り組むことのプライオリティを見つけ、それを共通のプロトコルに基づいてグローバルに伝え、交渉して勝ち得ていくということです。

 こうした戦略は、かつてWPPグループで12年、Salesforceで8年働いた経験から体得してきました。特にSalesforceでは毎年のように、海外から買収したサービスや製品の日本ローンチに携わったので、毎回、本国の経営者と話すために共通のプロトコルを短期間でつくって合わせていかないと、ビジネスを動かせないということを学びました。

――日本と海外では言語やプライオリティの大きな違いがありますが、マーケティング事例を共有することもあるのでしょうか。

 キンドリルでは、毎週のように情報共有のための会議体がグローバルでいろいろと開催されるので、良い事例があれば輸出入します。最も効率的なのは、ヘッドクォーターのある米国でつくられた事例を全世界に展開することですが、他国で生まれたベストプラクティスが、他の国にも有効と認識されれば本社で吸い上げ、それを各国に再配分するということも行っています。

 たとえば、先日スペインで開催されたエグゼクティブ向けのイベントでは、スペインで考えたクリエイティブなどを全世界で使えるように、グローバルチームがコーディネーションしてくれていました。また、そのようなエグゼクティブ向けイベントを日本にローンチしようという話も出ています。

 一方日本では、アカウント ベースド マーケティングについて他国より突出して成果が出ているので、その成功要因をまとめてビジビリティを上げ、グローバルに展開していくことも進めています。成功事例や貢献した人をグローバルに目立たせるというのも、投資を勝ち取るために有効です。

 先日はマイアミで米国、日本、カナダ、ブラジル、オーストリア、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、イギリス、インド、オーストラリア、シンガポールの13カ国からCMOが集まる会議に参加してきました。今後のマーケティング方針を議論し、各国の知見や文化を持ち寄ります。世界2位の市場である日本を代表して、グローバルな世界観で仕事をできたのは、個人的にも自分の強みを活かせていると誇りに思います。
  
キンドリル13カ国のCMOが集った米国・マイアミでの会議

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